短編棚

道化師なんかじゃない
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手を広げてくるりと廊下を回った彼女

何が面白いのか小さく笑いながら、
階段を軽い足取りで降りていった

この学年で有名な「道化」だ。


「・・・変な奴だな」
「そうですね」
「!!? くっ・・・ろこ、お前いつの間に・・!」
「さっきから居ました。」


彼女が廊下に出た時くらいから。

そう付け加えて言うと、火神君は
またかよ と呟いて額に手を当てた。

その後特大の溜め息も。

・・・そういや彼女とはクラスも別ですし、
よく知らないことが多いです。


「・・火神君」
「あ?」
「ちょっと人間、・・いえ」


道化観察やってきます。

そう言った僕に、は と目を丸くした火神君を見た後
彼女が降りていった階段を駆け下りた。

僕を見失ったらしい、火神君の声を聞きながら。

軽快な足音が、遠くながらに聞こえた。

足音をできるだけ抑えて、慎重に階段を降りていく。
それでいて、姿を視認できるほどの距離まで縮めたい

1階の階段踊り場まで降りて、人の気配が消えた。
さっきまでの軽快な足音も、プツリと


「・・・・」


壁に手をついて、ゆっくりと階段を降りる。
・・見失っ・・・た、?

疑問に思いつつ、階段を降り切って購買の方へ足を向けた


「アッハ、引っかかった」
「・・・!」


階段のてすりのある、壁の裏に背を向けて僕を見つめる道化
・・いえ、C組の紅咲さん

僕に気付いたことに驚いた、
人の気配がしなかった。

小さく息を呑んだ


「こんばんわ、黒子クン」
「・・・こんにちは、紅咲さん」
「来るかな、と思ってたらホントに来ちゃった」


2回目の、乾いた感情のない笑いを零して
彼女は壁から背を離した。


「・・見えて、るんですか?」
「見えるよー ・・・とっても」


影が薄い薄いと言われた僕が、
「よく見える」と道化の彼女が言う

感情の篭らない声と独特の笑い方。
道化・・・なんでしょうね、やっぱり

嘘か真意か分からない。


「だからさ、賭けたの。」
「賭け・・ですか?」
「そ。 黒子クンは影薄いって言われてる。 見えてるけど
 対して道化と言われて目立つあたし。」


両手の人差し指を立てて、僕の前に立つ。
そして片方の人差し指を、自身の唇に当てた


「正反対なアナタか、あたしを探しに来るか。
 それとも関わらないまま、今日が過ぎるか。」


そう言った後、彼女は笑いながら
手を広げて、またくるりと回って

手首を曲げて 指先だけ自分の胸に触れた


「あたしの勝ち」


ここで僕は気付く。
・・・というより、悟った。


「・・僕が負けると、どうなるのでしょう?」
「んー? そーおーだーなぁ」


背筋に流れる、冷たい汗。
ゾクッ、と感じた悪寒


「特に何もないけどー」


貴女を道化と言い始めたのは誰でしょうね
冗談もほどほどにしてください

彼女は道化師なんかじゃない。

彼女は、


「透明少年の観察は、させてもらうかも?」


彼女は策士なのだと。



(もしかして、聞いてたんですか?)
(アッハ、何でも聞こえるし見えるよ。 学校全体くらいは?)
(賭けっていうのは、僕を観察するための建前ですか)
(さぁ・・・? ご想像にお任せしちゃう)

(・・・どこまで信じていいか、分かりません)
(信じるも信じないもご自由に♪ 疑ってもいいよ)
(何を言、)
(いちおー、『道化』の名も伊達じゃないし?)





 

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