短編棚

生者必滅、なんて
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白一色。 唯一色があるとするなら、
窓際に飾られた花か、窓から見える景色だけだった

でも今も、その窓からは 黒い世界しか見えない。

いつからだろう。 どうでもよく感じ始めたのは。

ぼー、と窓の外を眺めていると
ドアから2回、ノックが聞こえた

・・・あぁ、もうそんな時間か


「どうぞ」


時計を見て、やっと今の時間を知る。
6時20分。 あれ、意外と遅い?

時間を確認した後、すぐに扉に向けると静かに扉が開いた


「・・・桜さん、こんばんは」
「こんばんは。 テツ君」


小さく笑う。 入って、と促すとテツ君の後ろから
1人、体のでかい赤髪の子も入ってきた

一昨日、会話した一連りやり取りが脳裏に思い浮かぶ。
・・・テツ君の、新しい光だったかな


「すみません、説得するのに時間が掛かりました」
「ッテメー・・・そうならそうと早く言えよ」
「いいよ、時間気にしないから。 2人とも座って」


いつも通り、ベッドの脇にある椅子に座るテツ君

無言で自身を指差して固まった赤髪の子には
ベッドの端を小さく叩いて、促した。

分かってもらえたらしく、おずおずとベッドの端に座る。


「具合は、どうですか?」
「んーん。 ・・もう、よくはならないみたい」
「回復の兆しがねぇ、ってことか?」


そう言い顔を向ける彼に、小さく頷いた。
遅かれ早かれ、いや。 これでも時期は延びた方なんだよ

と、暗い話になりそうだったから話題を変えることにした


「そーいや、さ。 名前は?」
「火神大我、 お前は?」
「紅咲桜。 テツ君と同じ中学だったの」


ね、と声をかけると テツ君も同じように頷いた。


「つまりお前も帝光かよ・・」
「『も』とは何だ、『も』とは」
「この間、青峰君や桃井さん 赤司君達と
 バッタリ遭遇しちゃいまして 少し苛立ってるんです」


あー、うーん。 ・・・つまりおちょくられたわけ?
頬をかいて苦笑いをする。


「でも火神君、桜さんはマネージャーじゃないですよ」
「・・・は? え、ちげーの?」
「帝光の、女子バスエースだったんです。」


ですよね、と切り替えされた声に
あー、うん と曖昧な返事を返した。


「・・帝光の女子バスって強いんだっけ?」
「全中2連覇しましたよ」
「・・・はっ!?」
「火神君。 病院内では静かに」


火神君に注意しながら んー、と背伸び。
ちょいちょい火神君、声大きいぞ


「その2連覇っていうのは私が2、3年の時の話だけどねー」
「桜さん、 もう、バスケしないんですか?」
「んー、?」


少し寂しそうな目をしたテツ君、
見てられなくて、少し目線を外した


「・・もう練習はしないだろうな。
 病院の外出たら、ボール触ってるけど」


やっぱ練習しないと腕落ちる一方だし、
もうそろそろ潮時とも思い始めてる。

今になっても諦めきれないなんて、思わなかったけど


「桜さんは体動かしても平気でしたよね」
「大丈夫。 一応は」


心臓病とか、怪我じゃないわけだし。
・・・・一応は。

そう思いつつテツ君を見ると、顎に手を触れたまま
小さく唸って。 少しだけ顔を上げた


「じゃぁ・・・土曜日の朝、桜さん掻っ攫いに来ます」
「「は。」」


初対面なはずの火神君と声がハモった。
テツ君、今何て言った?


「ってめーいきなり何言ってんの!?」
「え、 誠凛の皆さんと一緒にバスケやってもらおうと思って」
「外出届出すから! 掻っ攫うのはやめて、お願い」


―――――


「・・てなわけで、元帝光中 女子バスエース
 現誠凛1年の桜さんです」


何かすっごい省略感するけど、うん 何か、流れで。
話の軸がミスディレクションしました。 よくねぇよ。

監督らしい相田先輩は私を上から下まで見るなり
パァァア と笑顔になった。 おいおい、どうしました


「桜ちゃん・・・! ちょっとゲーム混じってかない!?」
「え、でも私ブランクもあるし」
「大丈夫! 予測だけど私が見た限りは!」


・・・何を見たってぇぇえ!?

白黒してるとテツ君が横から意味を訳してくれた。
なるほど、それは随分便利な。


「いいですよ、やりましょう」
「おっけー! 久々に1年VS.2年やろっか!」


さらっと位置につく。
おぉ、凄い この感覚懐かしい。

因みにさっきテツ君が言ったように、
私は1年なので、テツ君達の方につく。


「試合開始!」


ピーッ と笛の音が鳴る。
高く掲げられたボールを手に取ったのは、火神君だった

少しジャンプして左手でボールを取る
そして目の前に、えっと、そうだ。 伊月先輩

すぐに右手に持ち替えた。
ドリブルもせず、そのまま視界に入った後ろに居る彼に。


「・・・相変わらず冷静さは余ってるようですね」
「おかげさまでね」


私がテツ君に回したボールは、
2秒としないうちに火神君の手の内に収まった

コート内を走るうちに、小さく笑みがこぼれる

あぁ、やっぱ好きだな バスケ。

ふと何事か、火神君から回ってきたボール
これは・・・私が入れろという無言の命令ですか


「ブランクあるって・・先に言ったのに!」


ゴール下には木吉先輩とかいう、でかい人居たから3Pで。
曲線を描いて、ボールは。

ガンッ

リングに当たりつつも、何とか入った
・・・ん、微妙だな 今の入り方は

それと同時に。 自分の心臓もドクンと鳴った。
嗚呼、もうこんな時にまで嫌な鳴り方する。

その考えを振り払ってDFに戻ろうと
足を運んだ時に、テツ君の姿がうっすら入った


「ねぇ、テツ君」
「何ですか?」


貴方には、言っておかなくちゃいけない。


「多分私、明日以降バスケできないかも」


・・・信じたく、なかったけど。

そう繋げた私の言葉に、テツ君は目を少し瞑った。


「・・・それは、 貴女の勘ですか」
「・・んーん、これは 悟り、かな」
「じゃぁ、」


今日は、めいいっぱいバスケしましょう

そう言ったテツ君に、小さく頷いた。
テツ君の辛そうな横顔なんて、私は見てない。

気付かない振りをして、テツ君に笑いかけた。
今までの、人生最大級のお礼も込めて。



(”生者必滅、なーんて。 信じたくなかったけど
  命あるものに死が待つのは、自然なことだから。”)

(彼女はそう言って、笑って。 僕にありがとうと伝えた)

(なぁ、黒子 最近マジバ帰りに病院寄ること、なくなったな)
(・・・あぁ、火神君にはまだ言ってませんでしたね。
 桜さん、 あのゲームの翌日に・・息を引き取ったそうです。)





 

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