短編棚

どこをどう見たら
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4限目終了して早々に私は財布片手に教室から出る。

隣のクラスの出口付近で、数人の女子が集まって
わいわいと誰かに話しかけてるようだった。

ふと覗き見ると、少し飛び出た頭と
非常に見慣れたおでことひょこっと垂れた前髪。

特定が容易だった私は思わず声を掛けた。


「かーずなりっ、やっほ」


声で気付いたのか、呼び方で気付いたのか。
周りの女子達に「ごめん」と言い
人を掻き分けてそいつは姿を見せた。


「うーす、何か用?」
「別に何もないけど」
「っちょ、じゃぁ何で呼び止めたよ」


気分とだけ答えて舌出して笑うとグーが顔面に飛んできた。
とは言え本気のスピードじゃないから、普通に片手で受け止める。

止められる速度とは言え女の顔面にグーパンとはどういう了見だ。


「高尾君、隣の子誰?」
「わ、美人さんー! 彼女ー?」


多分、多分。 やっぱ私らなんだな、って思うの。

女子の不思議そうな声と表情に、お互い一瞬だけ力抜けたのも。
お互い、同じタイミングで手を下ろしたのも。

急に「っぷ」と吹き出すように小さく笑って
ニヤニヤしながら私を見やがったこいつ、後で腹殴る。


「だってさ。 どーする? 俺の彼女だってさ」
「あり得ない。 つかそんな顔でこっち見んな」
「えー! 違うの? 逆に何で?」


和成と私のからかいと否定する会話で、更に女子から言及される。

だって・・・ って言って、和成と顔を見合わせた。
そして彼女達に2人同時に顔を向けた。


「「だって双子だし」」
「・・・ちょっと、被せてこないでよ」
「どっちがだよ」


そう言った瞬間の、彼女達の顔が驚愕の色で染まったのに
またも2人揃って吹き出した。


「兄の高尾和成でっす」
「妹の高尾桜でーす」
「「いちおー、これでも一卵性」」


2人揃って顔の横でピースまでして。
何故こうも被るよ、双子だからか。


「ってーか桜、今日は弁当じゃねーんだ?」
「・・私が寝坊したの知ってて言ってんでしょ?」
「あっれー? おっかしいなぁ」


ポケットに手ー突っ込んで、またニヤニヤと笑う和成。
こいつ、いつからそんな笑い方するようになったっけ。

とりあえずムカついたから和成の腹に
グー入れたら普通に受け止められた。

結構本気だったのに・・・、いつものことか


「おっしゃ、俺もちょーど買いに行こーと思ってたし、一緒に行くか」
「どうぞご自由にしてください」
「あーっ、タンマタンマ! 俺まだ財布鞄の中!」


和成がバタバタと教室に入っていくのをスルーして、
私はさっさと購買へ向かうべく廊下を歩む。

大丈夫。 私歩きだから。 すぐ追い付ける。

トントンと軽快に階段を下りていき踊り場まで来ると、
ダダダと物凄いスピードで和成が下りてきた。


「追いついたっ!」
「今の和成、鷹じゃなくて虎みたいだったよ。 勢いが」
「ぶっは! 俺が虎!?」


一しきり階段中、ゲラゲラと笑ってるのを横で小さく笑う。
っつーか階段、意外と響くからそろそろ黙って。

と、横腹にチョップ入れようとしたら
これも普通に受け止められた。

そんでくっく、と笑い堪えたまま首に腕・・・首?


「っちょ、和成! 首っ、絞まっ」
「あ、宮地サーン!」


私の首に捕まえている右腕とは、
反対の手で誰かにぶんぶんと腕を振った。

ちょっ、待 首絞まってるから・・!!

首絞められたまま、ずるずると引きずられる私。
流石に窒息する、そろそろ解放しろバカ兄貴ッ!


「高尾、 ・・・誰だ、隣の女」
「彼女っすよ」
「轢くぞ」
「っ、寝言は寝て言え!」


片足の膝曲げて奴の向こう脛を蹴る。
クリーンヒットしたらしく、首に回る腕が緩んだ。

そんで右足の向こう脛抱えて、呻きながらぴょんぴょんと飛び跳ねる和成。

対して私はやっと解放された首を抑え、げほげほと咽た。
ち、窒息するかと思った・・・・


「いってぇぇ! っ、くそ・・・っ 桜めこのヤロウ・・っ」
「げほ・・・、 宮地先輩、ですっけ?」
「お? おう」


2回ほど咳をして見上げる、と思ったより見上げて首の角度が凄い。
うわー本当に身長高い、ざっと190くらい?

あ、てかなんで宮地先輩に声掛けたんだっけ私。
用件。 あ、そうだ、兄貴のほざいた冗談の否定。


「私と和成は双子です。 彼女じゃないです」


腰に両手を当てて、相変わらず見上げる。
っつーかどこをどう見たら彼女に見えるんだ。

まだ向こう脛抱えてぴょんぴょんと跳ねる和成と
私を交互に見た後、「・・・あぁ、」と呟いた。


「そんなに似てません?」
「よく見たら前髪は似てるかもしんね」
「・・・・他には」
「高尾・・・あ、あっちの方な、の方がテンション高い」


そう言って後ろを振り向いた。
跳ねては居なかったけど、まだ向こう脛さすってる


「まぁ、あれだ。 育ってきた内にできた温度差って奴です」
「? 2人で何の話してんの、 っつーかマジいってぇんだけど」



(桜、蹴る時ちゃんと手加減してくれた!?)
(はぁ!? 私の首を絞めて窒息状態にしたのはどこのどいつよ!?)
(女の方の高尾ー、お前もあんま変わんねーかもしんねーわ)
(ぶっは! 言われてんぜ、桜!)

(誰のせいだばかやろーっ! (ドスッ))
(はいはい、殴らない殴らない)
(受け止めるなぁぁ!!)
((・・・やっぱ双子なだけある・・のか?))





 

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