短編棚

一本前の電車で偶然
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中学1年の時、2年生の時と先輩達を2度見送って。
3年に上がって学校行事と受験でバタバタして。

高校合格通知が来てガッツポーズをして、
絶対に泣かないだろうな、と思ってた中学卒業式で涙腺緩んじゃって。

そんな今までが本当につい最近のように思えるから、人って不思議だ。

・・・・なーんて。

大分高校生活にも慣れてきた頃、通学コースである
最寄駅までの道すがら、ぼんやりとそんなことを考えていた。

私ももう高校生なんだー、とか。
3年ってあっという間だったなー、とか。

駅に到着し、改札の前まで来て電光掲示板を見上げる。

普段いつも乗ってるより1本前の電車が、1分後来るとの流れる文字を見て、
慌てて改札を通り、ホームまでの階段を駆け降りた。

別に急ぐ必要はない。

いつも乗ってる電車より1本前ってだけで、
1分後来るっていう電車乗り過ごしても遅刻はしないし。

でも、でもね。 学校まで遠いし。
早く学校に着いてゆっくりしたいんだ。

誰に向けるでもなく言い訳と理由を心の中で唱えて、
苦笑いしながら階段と降り終えたのと同時に、到着した電車。

開く電車の扉に、次々と車内から出てくる人と入っていく人を眺めながら
駆け下りた階段からは少し離れた車両の扉の前に並ぶ列の最後尾に並んだ。

この車両に入ると学校最寄り駅に着いた時、階段が近いんだ。

車両の中に滑り込み、扉の一番手前の席に一つ息を吐いてから壁に凭れた


「・・・桜ちゃん?」
「へ」


どこかで聞いた覚えのある声に顔を上げる。

斜め前のソファの後ろに立って、
雑誌片手に私の方を見ている・・・あれっ?


「た、高尾先輩・・?」
「やっぱり桜ちゃんだ。 久しぶりー!」


愛嬌のある見覚えのある笑みで、私に向けて手をヒラヒラと振り
高尾先輩は手元の雑誌を閉じた。

足元に置いていた鞄を引きずりながら私の右隣に立ち、同じようにソファの後ろに凭れる。


「マジ久しぶりだね、1年ぶりくらい?」
「そうです、ね。 先輩が卒業して以来だから」
「っつーと桜ちゃんも高校生か」


中学の時、男バス部で選手だった高尾先輩とマネージャーだった私。
1年先に生まれた高尾先輩は、私より1年先に中学を去った。

それ以来、一切会ってない

というか先輩が明るくて、人に超話しかけるタイプだったから
実質ただの先輩後輩だったし。 フツーに後輩やってただけで。


「桜ちゃん、いつもこの電車? 今まで見たことないけど」
「いえ、いつもは1つ後の電車に。 今日はたまたま早く乗れて」
「あ、そーなの? 朝練でもないのに随分早いんだ」


もしかして運動部のマネージャーで朝練?
って言葉に、首を横に振った。

そんで苦笑い


「遠いんですよ、学校。」
「こんな時間に出るくらい!?」
「何でわざわざこんなに遠い高校選んだんでしょうねぇ・・
 我ながら最近謎すぎて、ずっと疑問符浮かべてるんです」


苦笑いしながら首を傾げると、高尾先輩は「へー」と相槌を打った後
いつもの独特な吹き出し方で笑われてしまった。

今のはどこで笑われたんだろう。 我ながら最近謎すぎて?


「先輩はやっぱ朝練で、この時間に?」
「そ。 ・・ってかさっきから思ってたんだけどさ」
「はい」


高尾先輩は一拍空いて、右手で私の制服を指差して。


「その制服、もしかして誠凛?」
「えっ、 凄い、よく分かりましたね。 一昨年できたばっかの新設校なのに」
「やっぱり? どーりで見覚えある制服だなー って思ったわけだ」


先輩は笑いながら突然左手に持ってた雑誌を広げた。
あ、その持ってたの月バスだったんですか。

私が読める位置で雑誌のページをパラパラ捲る先輩の横から月バスを見る。
お目当てのページが見つかったらしく、先輩は1枚の写真を指した


「あ、うちのバスケ部」
「俺の通う学校の秀徳は、誠凛と大会試合で2度対戦、結果1敗1分け。
 プラス練習試合で3勝。 因縁のある高校なんだわ」


今年こそぶっ倒すけどなー、なんてケタケタ笑いながら月バス閉じる先輩。

・・・思い返してみれば、確かに図書室の前の掲示板にWC優勝って誠凛新聞があった
先輩の学校とうちのバスケ部って因縁あるのか。 覚えておこう。


「つか誠凛ってこっから1本で行けたっけ?」
「あ、乗り継ぎ2回。 地下鉄も使う」
「・・・相当遠いだろ?」
「・・・うん。 2時間くらい掛かる」


うへぇ、って気の抜けた苦笑いが隣から聞こえる
顔を上げると突然頭わしわし撫で回された

え、え?

疑問符ばかり浮かべて、大人しく撫で回されてたら
ニッ、て笑った 高尾先輩の超いい笑顔。


「どーせお互い学校着くまで暇なんだしさぁ、桜ちゃん
 これからこの電車に乗んない? 俺いつもこれ乗ってるし」
「あ、 いいですね。 私でよければ」
「マジで!? おっしゃ! うちの学校で家近い奴居なくってさ
 もー通学中孤独で寂しいったら!」


ほんっとよかった、って嬉しそうに笑う高尾先輩に小さく笑った。
相当暇だったんだな。

「そーだそーだ」と言いながら、高尾先輩は月バス広げていろいろ話した。

相棒がタメなんだけど超にドが付くくらいの変人だとか、
去年卒業した先輩達が怖かったけど超いい人だったとか。

誠凛のバスケ部はどんなチームだとか、
こんな選手が居てとても厄介なんだとか。

楽しそうに語る先輩の話を聞きながら、なんていうか
相変わらずバスケ好きなんだなぁ、っていうか。

とりあえず学校着いたら、バスケ部に突撃訪問見学しようと思った
中学時代の先輩が隣に居る、ある日の電車の中





(あ、秀徳ってここで降りるんですか?)
(後こっからバスで3、4分くらい? まぁ乗らずに走るけどね)
(流石運動部ですね。 因みに私は迷わずバス使います)
(体力作り不可欠だしなー そんじゃーな、桜ちゃん
 また明日から会おーぜ! 楽しみにしてる!)

(あ、はい。 ・・・楽しみ?)
(そりゃ楽しみよ。 桜ちゃんだもん)
(・・・別に私、高尾先輩みたいに面白い話とかできませんけど?)
(いーのいーの。 んじゃな!)





 

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