短編棚

一本前の電車で2週間
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「これから一本前の電車乗って俺と話そーぜ」

・・・なんて妙案を、高尾先輩から出されて2週間。

一本前の電車に乗るどころか、意外と近かった
私の家に毎朝先輩が迎えに来るという事態。

更に帰りの電車では、高尾先輩が一本先に乗ってることが発覚。
帰りも高尾先輩と同じ電車で過ごすことになった。

とどのつまり高尾先輩が半分以上、私に合わせてくれているわけですが


「ねぇ、そういや桜ちゃんさぁ 今日バスケ部入ったってホント?」


帰り道、私に合わせてわざわざ1本遅い電車に乗ってくれる高尾先輩に
感謝というか、お手数お掛けして申し訳ありませんみたいな。

ここまでよくしてもらって、正直複雑なところもありつつ
通学帰宅途中の先輩との会話は楽しんでいる。


「はい。 またやってみたくなっちゃって。
 ・・あれっ? 何で先輩が知ってるんですか」
「え? 黒子からメール来たよ さっき、1時間半くらい前」
「マジですか」


隠すつもりはないし、タイミング合えば言おうかなとも思っていたけど。
いや、流石に連絡渡るの早すぎじゃないですか。

そういや黒子先輩と高尾先輩、意外と仲いい・・?

っていうかさらっと連絡先交換してる仲なんですか。
この人ほんとにコミュ力カンストしてるな


「高尾先輩とも再会したし・・なんだか縁感じちゃって」
「なんかそーいうの嬉しいな。 俺のおかげでバスケ部に関わるっていうの。
 あ、でも今度は桜ちゃん別チームなのか」
「そうなりますね。 できる限り誠凛に貢献予定です」
「オッケー、俺も全力で勝ちに行くわ」


笑って握り拳作る高尾先輩に、隣で笑った。

直後ガタンと電車が揺れ、身体がぐらりと揺れる


「っ、わ」


踏み止まろうとした足は、一旦宙に浮いてまた床に足を着いた。

よろめいた際に体が傾いて、頭上から「おっと」という一言と共に、
衝突したような鈍い音と擦れた衣服の音を耳に、黒い学ランが視界いっぱいに映った


「わ。」


電車が揺れた時とは別の意味で「わ」だ。
「大丈夫?」と頭上から降った声に少しだけ顔を上げる。

よろめいた私を抱き止めてくれたらしい先輩の顔が至近距離。
流石に整ってる顔間近にあって驚いて、小さくこくこくと頷いた。

や、流石にこれは 照れる。

少し俯きがちに先輩の身体押して離れる。

背凭れに凭れようとして、私の肩に先輩の左腕が回った。
だけに留まらず引き寄せられた、 って、え?


「っ、ちょ せ、先輩。 もう大丈夫です、」
「ん、また揺れるかもだし体預けてくれていいよ」
「いや、その」


顔が急に熱くなる。

だから近い、近いんですってば。

外がもう暗いとは言え、ちょうど皆帰り道で人は多いし。
先輩と私以外にも人は居るのに、 ・・恥ずかしいんですけど。

さっきまで喋ってた先輩も無言だし、
・・や、喋ってもまともに返事返せる気がしない


「・・・・」


線路を走る音以外、話し声も聞こえなくなったような静寂な車内。

電車の中ってこんなに静かだっけ、と
なんだか別世界に来てしまったような感覚だ

少し躊躇しつつも、こつんと高尾先輩の胸板に頭を預けた。

・・・あ、微かに心音が聞こえる

ゆっくりと目を閉じる。
人は他人の心音聞くと落ち着くっていうけど、そうなのかもしれない

きゅ、て肩に回された手が少し力が入って
落ち着く、どころの話じゃなくなった。

体まで暑い・・や、熱いんですけど、


「・・・桜ちゃんってさ」
「は、い?」


頭上から、声量抑えた先輩の声が普段より近距離で聞こえて。
顔を上げようとして制止の手。

大人しく高尾先輩に頭傾けて、体預けたまま。


「身体ほっそいな」
「・・・そうですか?」
「うん 何か、折れそう。」
「さ、流石にそこまで脆くはないと思いますよ」


顔上げたら、めっちゃ近距離に高尾先輩の顔、 見上げて1秒で硬直した。

・・・顔上げなきゃよかった、かも。 超近い、
え、 ・・ちょっと待って、これ下手したらキスできる距離じゃ

思わず、息を呑んだ


「”まもなく、○○駅に止まります”」


はっと意識が覚醒する。

見上げてたのやめて俯いて、口元に手を当てて深呼吸をする。
やばい、今のは、意識持ってかれそうな感覚だった

・・・もうすぐ駅、着いちゃうな


「桜ちゃん」


呼ばれて、顔上げて。 顔上げきる前に額にちゅ、って そんなリップ音。
私は、へ なんて間抜けた声しか出てこなくて。

高尾先輩は超いい笑顔で、いつの間に着いたのやら
開いた電車の扉に、肩に回された腕で外に促される。

連れられるように階段を上りながら、改めて意識が覚醒した。


「たっ、高尾先輩・・!?」
「あのさぁ、桜ちゃん」
「は、はい!?」


裏返る声と、周りのざわざわ音で
何かよくわかんなかったけど。

時間が、ゆっくりと 進んでいた。

改札抜けて、歩きながら高尾先輩が言った言葉
言葉を紡いでいた唇がやたらスローモーションで、


「俺、桜ちゃんのこと ずっと好きだったんだけど」


何故か、その声だけ雑音無しで耳に入ってきた。

・・・あれ、もしかして私
あの高尾先輩に告られてます・・・?





(・・・っえ、高尾先輩が私を、ですか、)
(俺が桜ちゃんを。 ・・え、すっげー顔真っ赤)
(言わないで・・っ、ていうか高尾先輩・・ち、近いんですけど)
(・・俺が暇だからってだけで、ここまで桜ちゃんに良くすると思った?)

(・・・? えと その、)
(だからさ 一応下心、なんだけどさ。 ・・ダメ?)
(あ、 いや、その・・わ、私・・・)
((あ、逆に俺がダメだ。 煽られてる気しかしない))





 

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