短編棚

居ないけど在る彼女、
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ずっと昔 触れたものは温かくて、俺の隣で
向日葵のように笑っていた。

昔 触れたモノは冷たくて、眠ったような顔で
箱の中に寝転がっていた。

今朝 触れたモノは冷たくて、枠の中央で
太陽のように笑っていた。

今 手を伸ばしたモノは触れなくて、顔は見えなくて
霧のように消えていった


「・・・・」


空虚を掴んだ俺の手には、何もなくて
一度手を引っ込めて、ゆっくりと降ろした。

未練アリアリ。 いや、お前じゃなくて 俺がお前に。

言ってやれなかったこと、言えなかったこと
・・言ったこと。 伝えたこと。

辿り着いたのは自分のクラスで、俺は自分の席の前に立っていた


「っあー・・・」


誰も居ない教室で、走ったせいか少し掠れた声が出て
椅子引いて、腰下ろして。 うつ伏せて窓を見つめた

沈みかけてる夕日は、教室だけとは言わず
学校全体を照らしているようだった

コツン、と響いた足音に振り向かないまま足音を聞いた


「・・ここに居たのか」
「あれ? 真ちゃん探しに来てくれたの?」
「突然練習ほったらかして走り出すお前を
 時間掛かってもいいから連れて帰れと、宮地サンが」


あー、 そういや練習真っ最中なのに、体育館抜け出してきたなぁ

呼び止める声が聞こえたような気もしたけど、
何か耳に入ってこなかったからスルーしていた。

うつ伏せていた体制を起こして、机に肘をつく。

真ちゃんは俺の後ろの席に座った。


「・・俺は、お前が理由なく 練習を投げ出す奴とは思えない。」
「っひょー、緑間の俺に対する信頼度たっけー」
「黙れ。 何があった」


椅子に凭れて、少し後ろに座る真ちゃんをチラッと見て
目線戻して自分の脚に視線を落とした。


「・・・真ちゃんには話したことなかったなぁ・・」


目を伏せて、自嘲気味に笑う。

目を瞑って、沢山あるページの本の中から、
中身を思い出すように。 ・・思い出していた


「俺にはさ、同い年で幼馴染って言ってもいいくらい
 小さい時から仲いい女の子が居たわけよ」
「・・・」
「笑顔がとにかく眩しいの。 で、
 彼女を好きだなーって自覚し始めたのが小5くらい」


多分中1のバレンタインの時だったかに、告ってー
いや、告ったっつっても気持ち伝えただけなんだけどね。

あ、でも 「ごめん、まだよく分かんない」
って苦笑いされた記憶はある


「んで、中学2年の時な。 ちょうど今くらいの時期」
「・・・あぁ」
「彼女、死んじゃったんだよ」


カタリと後ろの椅子が動いた音がした。

また自嘲的に少し笑って、椅子を窓側に向けた。
左側に真ちゃんとその机。 右側に俺の机。 まん前に窓


「事故でさ、打ち所悪かったらしくて即死。
 一緒に帰ってやれば彼女は助けられたんじゃねーかな、って」


今もすっげー後悔してるよ。

俺の片手には、まだ彼女の手が添えられたかもしれないって。

両手開いても手は添えられないし、
俺の好きな子の姿は、この視界にすら1mmも見えやしない。


「んで、中3の夏にはお前にひっでー点数つけられるだろ?
 幼馴染の死とWパンチだし、いくら俺でも一時期病んだわ」


左肘をついて頬杖しながら、当時思い出して苦笑い。
生きてる中で、唯一の病み期だと思うわ 俺


「んー、まぁその病み期脱出できたのも
 彼女が居たからなんだけど」
「・・? 死んだのでは・・ないのか」
「死んだよ。 火葬場で焼かれて骨になったのも見ちゃった」


中学2年ってのもあったし、ショッキングだったよねぇー
って苦笑いした俺を見て、真ちゃんは固まってた。

それで真ちゃんは、厳しい表情で下を見つめていた


「・・でもさ、俺は 彼女は生きてるかも って。
 思い始めちゃったんだよね。 良くないことに」
「・・・?」


だって、死んだ人間が 好きだった人が、
まだ生きてるかもって、近くに居るかも、って錯覚し始めてみ?

想いいつまで経っても消えないし、結構しんどいよ?


「何ていうか、この時期になるとさ、幼馴染の姿、『視える』んだ
 気のせいかもしんないけど。 去年は手紙と写真貰った」
「・・・幽霊の類か」
「分っかんね」


だとしたら、幼馴染にすげー悪いことしてるな って思う。
だって、成仏できてないってことだろ


「今日体育館飛び出したのだって、入り口に
 幼馴染らしき姿が見えちゃったからだよ。」
「・・・・」
「見えないまま追いかけて・・気がついたら教室だった」
「・・高尾、」


んー? と椅子を後ろに傾けて一点をじっと見つめる真ちゃん
どこ見てんのかって、思ってたけど多分机、


「・・その白い封筒・・さっきまで入ってたか?」
「へ?」


ばっと机の中確認したら、横長の白い封筒が1つ。
やたら真新しくて、何も書いてなくて。


「・・真ちゃん、ハサミ」
「・・・俺の机の中にハサミがあってよかったな」


刃の部分を持って、持ち手を向けてくれる真ちゃんから
ハサミ受け取って、封を浅く ゆっくり切った。

切り取り終わって、中身を見た。

白い紙が1枚、それすらも真新しくて。
綺麗に折りたたまれて、封の中に入っていた


「・・・お前が言う幼馴染からか」
「かもしんない。」


紙を引き寄せて、折りたたまれた手紙1枚を広げた
手紙と言っても、メモ帳1枚サイズだったんだけど

紙には、中央に 綺麗な文字で、短く綴られていた


「・・・ねー、真ちゃん」
「何だ」
「居ない人に想うのって、周りの人からすれば
 どっか狂ってるように見えたりすんのかな」
「・・・別に、何をどう思うかは自分次第だろう」


人の思いは、他人が簡単に邪魔していいものではないのだよ

って、告げた真ちゃんを横目に、
俺は眉寄せながら、笑って。

一切れの紙をずっと握り締めていた。



(ありがとう、そこまで考えさせてごめんなさい)
(私のことはそろそろ忘れて、和成君は幸せになってください)

(ごめんね。 私も和成君が大好きでした)


(生憎こっちは、相当惚れ込んでたらしーんで)

(とりあえずは来年までには、この過去形を
 訂正させるつもりで今日から1年過ごす。)





 

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