短編棚

俯いて紡いでそれで、
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「いっけね、忘れもん」


練習着で階段駆け上って廊下をばたばたと走る。

校舎は放課後だからかほとんど人が居ない、
どころか人気がしなかった。

ほとんど皆、部活か委員会か何からしい。

俺も同様、バスケ部の練習に行ったものの
どうやらバッシュを忘れたらしく。

バッシュが鞄に入ってないことに気付いて !?状態だった。

そんで今、慌てて取りに戻って。
教室の前で、走るスピードを落とす。

黒板側の扉から教室に入って、早々目に入ったのは
2列目ほどの机で俯いてるクラスメートの姿


「・・・お」


どうやら寝ているらしい、その席の持ち主 紅咲さん。
腕を組んでそれを枕にして目を瞑っている。

兎に角バッシュを取りに、自分の席まで
音を立てないように歩いて取って。

そのまま出ようかと思い、扉まで音を立てずに歩いて。


「・・・」


紅咲さんが座るその席まで戻り歩き、
近づいてしゃがんで、俯かれているその顔を見た

彼女の寝顔は起きてるよりかは幼くて、

あ、かわい なんて。

そのまま数十秒、じっと見ていたら不意に紅咲さんが
組んでた腕の上で、少し動いて ん、と呟いた

起きて・・・ねーわ、まだ眠ってる

夢でも見てんのかなとそのまま彼女を観察する俺マジ男子高校生。

それを知らず紅咲さんは眠ったまま、
少し肩を竦めて、少し開いた唇で紡いだ。


「・・・ん・・・、好き・・」
「!!」


一瞬でぶわっと身体の体温が1度上がった。
ような気がした。

いや、 いや、 いやいやいや。

この教室で紅咲さんの他に俺しか居ないとは言え落ち着け。

彼女が俺に向かって言ってるとは限らな・・・い、し

・・とここまで来て、さっき上がったような気がした
体温はそこそこ落ち着いた。

まぁ、可笑しくないっちゃ可笑しくないんだ
紅咲さんだって俺とタメ、高校生なわけで。


「(・・好きな奴でも居んのかな)」


さっき肩を竦めたからか、彼女の前髪が降りて
顔を隠していたから、耳にかけようと手を伸ばした。

あ、めっちゃ髪さらさら。

その髪を耳にかけたところで、もう一度紅咲さんが
ん、 と短く呟いた。

慌ててぱっと髪から手を離し、数秒して彼女の目が開くのを、見た


「お、」
「・・・、高尾・・くん・・?」
「おっはよ」


何とか平常心保って挨拶。 起きたらおはようだよな。 な。

寝惚けめで、数秒黙り瞬きをしていた紅咲さんは、
・・刹那ばっと起き上がって、口元を手の平で覆った。

起き上がったのと同時に、俺がしゃがんで紅咲さんが俯いて
顔の位置が同じ高さだったものがズレ、俺の顔もそちらに向けられた


「なっ、なな何で高尾く・・! 部活は・・!」
「忘れ物取りに来たら紅咲さん眠ってるからー」


と、右手に持ってたバッシュ入れの袋を持ち上げる
紅咲さんは口元抑えたまま、 そ、そっか とどもり気味で答えた


「さっきから口元抑えてるけど、どーかした?」
「あ、 ごめん、さっき起きた時、目の前に高尾君が居るとは
 思わなくて・・ごめん、気悪くさせちゃったかな・・?」
「全然へーき。 驚かせてしまってごめんな」


紅咲さんはほっと一息ついたのと同時に、
口元を覆ってた手を下ろした。

俯いている人が居なくなった紅咲さんの机は
何かやたら広く見えて、しゃがんだままの俺が、机に肘をついた。

ふと紅咲さんが気になったように、俺を見た。


「高尾君、 部活、行かなくていいの?」
「・・・あ。 そうだ、今行くわ」


そっか、という紅咲さんの声。

その直後、よっ、と言う声と同時に立ち上がった
つま先は若干痺れてるような気がした。


「あ、紅咲さん 部活行く前にさ」
「? 何?」
「紅咲さん、好きな人とかいんの?」
「・・っえ、な、何で」


あ、この反応は居るんだな と悟った心境とは裏腹に
何となく、と言葉にしていた。

えっと、とどもりながら目線泳がす紅咲さん。

気になった女の子に好きな奴居たら多少なりとも妬くよな。
気になるよな。 とか、なんて、多分。 俺だけじゃない。

とは思ってるけど、表情取り繕うのは不本意ながら得意らしく。


「ね、俺の知ってる人? クラスの人?」
「え、いや ・・いや、あながち間違いでも・・」
「えー、曖昧だなぁ 真ちゃんとか?」
「緑間君はいい人だけど、 恋愛感情じゃないっていうか」


真ちゃんじゃねーのか。 じゃぁ誰だ。
クラスの人で俺が知ってる人って

クラスの男子は一通り声交わしてるけど、他に思い当たる奴居ねぇや

紅咲さんは戸惑ったように、困った表情見せていて


「・・あの、 高尾君にだけ、今度好きな人、言ってもいい?」


少し頬染めた紅咲さんに、無神経というべきか。
若干イラッとした。 ・・いや、ま しゃーねーんだけどね。





(・・おう、また今度でな)
(う、うん。 部活頑張ってね)
(おー。 紅咲さんも帰り道は気ぃつけろよー)
(うん、 ありがと)

(よく抑えた俺。 あー、でも声のトーン下がったかなー)
(・・・怒らせ、ちゃったのか、な)





 

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