短編棚

伝えて俯いてそれで。
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少し疲れが見えたからか、今日は居残り練を休み
そのまま校門を出ようとしたところで、

後ろからの「あ、」という声に上半身だけ振り向いた


「お、紅咲さん」


小走りで俺の隣まで歩いてきた紅咲さんは、
俺より頭1つ分小さい。

部の皆が大きいからか、何かちょっと新鮮だったり。


「今日は高尾君、帰るの早いね」
「居残り練休んだんだよ。 疲れてるっぽくて」
「そうなんだ、 家帰ったらゆっくり休んでね」


おう、と返せば紅咲さんは少し俺を見上げて
ちょっとだけ目を細めて笑った。

こうして話してる時は大人っぽいかも、とか。


「紅咲さんはこんな時間まで学校に?」
「うん、課題の美術の奴やってて」
「・・あー・・れかぁ・・」
「・・凄く嫌そう」


苦笑いしながら俺を見上げている紅咲さん。

美術はなー・・・美術はなー・・!
絵得意じゃないし、好きじゃないんだよなー


「めんどーな課題出されたもんだよな、ホント・・
 紅咲さんはそれ、もうできたの?」
「ううん、下書きだけ。 イメージ固まってるから
 後は調整と色塗りだけかな?」
「あー、紅咲さん美術部つってたっけ」


あ、絵見せて! とポケットに入れてた手を
紅咲さんの前に差し出す

え、 と一瞬停止した紅咲さんに ん? と疑問符


「や、やだ」
「え、何で」
「人に自分の絵見られんの恥ずかしいし。
 ・・・笑われたくないし・・・・」
「っぶは! もー笑わねーって!」


それに紅咲さん、絵上手っしょ って
付け足したらはっと顔を上げられた。


「・・・・いつ見たの」
「最近ちょくちょく。 いつも熱心に
 机に向かって、何か描いてるかんねー」
「何それはずい」


紅咲さんは片手で顔を覆いながら、鞄の中を漁り出した。

お目当てのものが見つかったのか、
やんわりと2つ折りにされている紙を俺の前に差し出した


「ホントお願いだから笑わないでね」
「笑わない笑わない! サンキュ」


紅咲さんは両手で顔を覆いながら歩道を歩いている。
・・・若干フラついてるけど

ゆるく2つ折りにされた紙を開いて、

開いて、 息を、呑んだ。


「本当は完成してから見せたかったんだけど・・うう、ごめん」
「何で謝んのさ。 ってかこれ確認のため聞いていい?」
「なんでございましょう・・」
「・・これ、もしかしてバスケ部の皆?」


鉛筆で薄くささっと描かれたものは、
何度も見たことのあるユニフォーム。

ボールの軌道が全部繋がってて、
もしかしてこの10番って俺?

そのボールから6番のシュートって、これ真ちゃんじゃね?


「です・・・・バスケ部の皆さんです。」
「・・すっげーな、」
「色ついたらもうちょいマシになるはずだからホントごめん」
「いや、もう十分上手すぎて意味分かんない
 ・・お? 10番2人居るな 誰?」


軌道の一部に、恐らく俺ではないもう1人の10番。
秀徳じゃない10番ってーとー・・うーんと、


「インターハイの、 誠凛戦」


ポツリと呟いた声と、ダンクしてる10番を見て合致。

・・あぁ、アイツか。 言われてみりゃ、
変なとこでボールの軌道が直角に曲がってる。

ってか紅咲さん見に来てたのかよ


「紅咲さんにはこー見えたわけ?」
「・・・変?」
「んーん、すっげー綺麗」


サンキュ、ともっかいやんわりと
2つ折りにして紅咲さんに返す。

ほっとしたような顔で、紅咲さんは少し微笑んだ。

行き場をなくした手はとりあえずポケットに突っ込む


「あ・・、高尾君 私の家ここ」
「マジで? 俺の通り道なんだけど」
「嘘、」
「マジ」


因みに俺は後もう10分ほど歩いたとこ
と、この先の道を指差す。


「へー、紅咲さんちここかー 覚えとこ」
「覚える意味ないじゃん」
「いやいや、それがあるんだな。」


笑いながら首を傾げた紅咲さん。

だってこれどっか行く約束したら迎えに来れるじゃん。
覚える意味あるんだな、それが。

まぁオフ少ないケド。


「じゃーな、紅咲さん 完成待ってる」
「うん。 ・・あ、た 高尾君待って」
「ん?」


紅咲さんは困ったように、顔を逸らして。
肩にかけたスクールバッグの紐をぎゅっと握り締めていた


「・・この間の、 今言おうと思って」
「・・・あー、教室の?」
「うん」


ちょっとだけ屈んで、って1歩近づくから、
ポケットに手を入れたまま、少し屈むとふわっと甘い匂い

耳元に手と口近づけられて、聞いた言葉、は。


「っじゃ、じゃあね高尾君 また明日!」


ばっと俺から離れて、玄関の扉に向かう紅咲さん
・・の、腕を 反射でポケットから手を出して掴む。

掴まると思ってなかったらしい紅咲さんは、
そのままバランス崩して俺の前まで逆戻り。

背を向けたまま、俯いてる紅咲さんの顔は
ここからじゃ確認できない、けど


「・・ねぇ、今の本当?」


嗚呼、もう。 貴女は何故俺が嫉妬してからそれを言うんだ。





(に、2度も言わないよ・・てか腕離してお願い、)
(逃がさねーよ 俺だって人間だし)
(っ、ちょ 高尾く・・・ち、近い)
(・・俺もさ、好きだって言ったら逃げない?)


((あ、あのね 私、その、))
((高尾君のことが、好きなの))





 

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