短編棚

11月目の21日目
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大した奴だと思う。


面識の狭い俺から見た勝手なイメージだがあいつは第2の高尾だ。

もっと言ってしまえば、高尾よりは大人しいが
人より明るくて対話能力に長けるというのか。

割りと砕けた口調で話すからか話しやすい。 のもあるのか。

高尾のあのテンションに慣れだした頃に
アイツの紹介でそいつと俺は出会う。

クラスメイトなので、正確には出会う というか
まともに喋った。 と言うべきか。

そんなそいつは高尾の席であるはずの、
俺の席の前に座りケータイをいじっている

ふと思い浮かんだようにグラウンドに目を向けて、口を開いた


「緑間君さぁ 高尾君の誕生日とか知ってる?」
「・・・突然何だ」
「高尾君さそり座じゃん? もうそろそろだと思うんだよねー」


11月のカレンダーを開いたケータイを俺の方に向ける紅咲。

14日にケーキマークがついている。
・・・・14日?


「紅咲、この14日は何だ」
「ん? あぁ、これね 母の誕生日。 お母さんもさそり座だし
 高尾君ももうすぐかなって思ったんだけど」


もしかしてもう過ぎちゃったかなー、と俺の机に項垂れる紅咲

高尾のことだから誕生日ぐらいは騒ぐのだよ
と言ったら、それはないかなーと紅咲は呟いた

何故そう言える? と返せば、うつ伏せたまま んーと唸った。


「まぁ高尾君は割りと私と同類だって思ってるし。
 祝うのは好きだけど、祝われるのとは違うって感じかな」


因みに私は見事に誕生日知られずに終わったよ
と付け足されて、は? となった。

おい、いつなのだよ。
8月ー
・・・完全に夏休みじゃ
でしょー?


「・・言えばいいものを」
「言わないから高尾君と同類なんでしょー」


聞いたら答えてくれるかなー、とケータイカチカチしだした。


「おい、そろそろ起きるのだよ。 授業始まるぞ」
「後1分余裕あるってばー」
「えっ? あれっ、何か俺の席占領されてんだけど」


お、と俺の机の上で、高尾が立ってる方向へ顔を向きなおす。
やほー、と挨拶する紅咲と よお、と挨拶し返す高尾


「何か項垂れてる子居るんだけど、これ持ち運んでいいの?」
「え、何 私は粗大荷物なの?」
「ブフォッ 粗大荷物をお姫様抱っこすんの俺!?」
「粗大荷物名義で姫様抱っことか嫌すぎるんだけど!」


高尾が っだろーな! って笑いながら、ほら起きろーと
紅咲の腕を持ち上げるといとも簡単に紅咲は立ち上がった。


「紅咲が立った・・・!」
「何、私はクララなの?」
「粗大荷物名義のクララ? っぶふ」
「何それ嫌すぎるんだけど」


そのタイミングで先生が教室入ってきて、
それに気付き歩き出した紅咲は。

ひらりと俺らに手を振って自分の席に戻った


「ホントおもしれー奴だよなー 紅咲。
 ってか真ちゃん、何話してたの?」
「特に何も話していないのだよ」
「は!? じゃぁ何しに来たのあの子!」


本当あの子謎なんだけど! と机に顔を伏せて
笑い堪える高尾を見ながら、携帯のバイブが鳴ったのを確認した

机の下でケータイをパカッと開く。
新着メール1件。


「”今日の部活で高尾君の誕生日聞き出す。
 過ぎたにしろこれからにしろ、
 何かしらお祝いやろうと思ってるけど緑間君混じる?”」


目を通し終わった瞬間、チャイムが鳴る。
「きりーつ」という号令と共に、俯いてた俺に振り向く高尾


「真ちゃんどーかしたん?」
「別に何にもないのだよ」
「そ?」


号令を終えて席に座って、メールの返信画面に、
ああ と2文字打ち、送信を押してからケータイを閉じた。



―――――



そーいやさ、高尾君ってさそり座じゃん?
ん? そだね
もうすぐなのかなーって思ってさ、高尾君誕生日いつなの?
今月の21日。 っつーか俺も紅咲の誕生日聞いたことねーや

お、もう少し。 私の誕生日ねー ・・ふふ、いつでしょう?
えーっ 俺教えたのに答えてくんねーの!?
じょーだん、 8月だよ
へー、はちが・・8月ゥ!? 何それ! 過ぎてるんだけど!


シュート練に励んでいた俺の数m後ろから、
そんな会話が聞こえてきたのは5日前のことだ。

さりげなく聞いた上に、深く干渉されない話のすり替えの仕方は
紅咲も高尾も上手いな、と思う。

数時間後、紅咲からケータイの方にメールが来ていて
「というわけで緑間君は高尾君の誕生日知らない振りしてね」

というメールが届いた。 挙動不審にならないかだけが心配だが。

デパートの1階、珍しく部活オフな日曜日に
約束を取り付けたのも5日前だ。

待ち合わせ場所の壁を背に、買った当初より随分使い慣れた
ケータイで、時間を確認すると待ち合わせ時間の5分前だった。

その後すぐ、小走りした人の足音。
音の方向を見ると私服の紅咲が、少し驚いたように目を開いた


「緑間君早いねー 早めに家出てきたつもりだったのに」
「まだ5分前なのだよ。 それにさほど待ってなどいない」
「それならいいんだけど・・」


とか言って10分前行動しそうだしなぁ、
と唸る紅咲は人を待たせるのが嫌らしい。

・・・多分、なのだが


「突然だけどさ」
「ぬ」
「緑間君、意外と寒がりでしょ。」
「・・・冷えるのだよ・・・」


もうマフラー? とマフラーの端っこ引っ張る紅咲に
おい、と引っ張るなという意味を込めて言う。

笑いながらぱっと離した紅咲は、
エスカレーターの方に歩き出そうとしていた


「ところで今日のかに座のラッキーアイテムなんだっけ」
「楽譜ファイル」
「そのファイルは?」
「鞄の中なのだよ。 手はポケットに入れるからな」


・・冷え性でしょ?
・・・違うのだよ
その溜め何よー
何でもないのだよ


「ところで、 何かイメージ固まった?」
「・・・俺は電子ピアノにした方がいいのだろうか くらいは」
「へぇ。 何故?」
「ギターがピアノに掻き消されて、
 ギターの音が活かせないと聞いたのだよ」


あー、それ気になってたんだー やっぱりかー
と参ったように額に手を当てる紅咲。

エスカレーターに片足を乗せた紅咲はそのまま上っていって。


「学校に電子ピアノなんてあったっけなー」
「秀徳をなめてはダメなのだよ」
「えっ、マジで? あるの? 電子ピアノ!?」
「あぁ」


おー、何それ凄い。 じゃー幅広がるんじゃないー?

と背伸びしながら、紅咲は迷わず
3階へのエスカレーターに足を乗せた。


「言っておくが、俺はギターとのデュオなんぞ初めてだぞ」
「奇遇ね、私もピアノとのデュオ初めてだわ」
「・・・・」
「・・・何とかなるよ。 緑間君がきっとカバーしてくれる」


・・・俺がフォローするのか。





 
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