短編棚

好きって難しいよね
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好きって難しいよね。

放課後、珍しく部活休みな高尾君を捕まえるなりそう言った。

降って湧いたような脈絡もなく突拍子のない話題のため、
彼は不思議そうに瞬きを繰り返していたけれど、
私の話には付き合ってくれそうだった。


「へぇ、好きが難しい。 へぇ。 好きな奴とかはいねーの?」
「友達は好きだなって思う。 ・・・でも恋愛の好きはどうも分かんないな」
「・・・ふーん」
「違いとかないかな、って」


緑間君の席を借りて座っているのだけどどうも机と椅子が高い。

流石身長190センチ越え・・背高すぎるのも苦労がありそうだけど、
椅子が高いのはちょっと羨ましいかもしれない。


「・・てか紅咲、何でその相談? が、男の俺なの?
 女の子同士の方がいんじゃね?」
「友達に突然『好きの違いって何』って聞けないよ」
「ごめん、確かに」


頭をがしがし掻いた高尾君は持ってた紙パック牛乳のストローに口をつけた。

天然だなんだとは言われるけれど一応相手は選んで聞いているつもりだ。
尚私自身は天然は否定している。 そんな可愛らしい思考はしていないはず。

・・・窓の外を向いている高尾君の横顔、こんな間近で見るのは珍しいかも。
顔整ってるなぁ、つり目だけど鼻も高いし。

横顔を観察されてた当の高尾君はストローから唇を離して、
私が座っている緑間君の机に肘をついた。


「じゃー男で好きと言える奴とかは? 今席に座ってる真ちゃんとか」
「緑間君は面白い人だよねぇ、好きだけど友達の方だと思うよ」


聞いてきたわりには興味なさそうにふーん、と一言発した高尾君。
ストローを唇の端に寄せて、他は? と聞いてきた。

他に好きだと思う男子・・・? 数秒考え込む。


「・・・河坂君、高尾君とか?」
「河坂と誰だって?」
「河坂君と高尾君」


意外そうな顔で「俺?」と自分を指差す高尾君にコクリと頷いた。


「河坂とお前は同じ班で喋ってんのはよく見るけど・・・俺?
 よく喋る奴リストに紅咲居なかった気がすんだけど、あれ?」
「確かに会話はしてないねぇ」
「真ちゃんに負けず劣らず不思議ちゃんだよな、お前も」


おもしれーんだからいいけど。
ちゅー、とストローに口をつけた。

緑間君は面白い人だし、河坂君はよく話すから好きだと思う。
それで高尾君も会話はあんましないけれど好きだとは思うんだよね。

真っ直ぐ私を見つめる高尾君と何故か視線が合わせられず目を反らした。


「んー、で?」
「?」
「その紅咲の俺への好きってどんなの?」

「・・・気になるの?」
「女の子に好きと言われて気にならない男はいねぇわ」


ごっそさん、と紙パック牛乳を自分の机の上に置いた高尾君は、
普段緑間君にやっているように机に両肘をついた。

少し前のめりになる高尾君との距離が近付いて、
思わず猫背を直した。 顔が近い。


「高尾君はねぇ・・よく分かんないんだよね」
「お? どゆ意味」
「好きだよ。 そうは言えるけどどことなく曖昧なの」
「・・・おう。 今お前の『好きだよ』にちょっとドキッときたわ」


少し指先で唇抑えた高尾君に疑問符浮かべる。 どきって何。


「友達を好きなのと似てるけど、高尾君と私特別仲いいわけじゃないし」
「うん」
「でも、多分信用はしてると思う」


だからこんな話もしてるし。
少し眉を寄せて微笑めば真正面でそれを見た高尾君は一瞬ぴたりと固まった。


「・・? 因みに高尾君は好きな人居ないの? 恋愛感情で」
「っぶ! げっほ! ゴホ、」
「大丈夫?」
「思いっきりむせた・・・え、待ってよ言わせんの?」

「無理強いはしないよ。 聞きたい気持ちはあるけど」
「うわ、俺その言い回し苦手」
「苦手?」
「言い方がな、ずるいんだよな」


聞きたいって言われちゃ言いそうになんだもん、
苦笑い交じりで高尾君の身体は窓の方を見た。

しばらく考えるような表情をしている高尾君は、
今好きな人でも思い浮かべているのだろうか。


「・・・居るよ、好きな奴」
「へぇ。 どんなんか聞いていい?」
「多分それへの質問だろうから言うけど、まぁ、その、
 ・・好きなんだよ。 胸がいっぱいになるくらい」


目を細めて学ランの上から胸に握った手を添えた高尾君。
ぎゅ、と握りしめたその握り拳は少しだけ学ランに皺を寄せた。


「すげー好き。 触れたい。 でも仲いいわけじゃないんだよな」


わりと俺ってヘタレー、って笑ったのが半年前ー。

高尾君は苦笑いしながら、少し私に目線を投げた。
気のせいか切なげな目をしてて、それすらも絵になる気がする。


「・・その人を好きになったこと、後悔 してる?」
「・・・してねぇよ。 諦めたわけじゃないし、
 手に入らないと決まったわけでもねぇし」

「なんかいいな、そういうの」
「丸一日喋りもしないだけで結構クるぞー?」
「それでも。 なんだか羨ましいかも」


自分が分からない感覚だからだろうか。
私に1日話せないだけで焦がれるような人って居るっけ。

誰かを想って必死になれるのは仮に恋愛感情でなくても凄いと思う。
あれ、もしかして私って淡白だったのかな。 だから分からないのかな。

窓を見ていた彼は少し目を伏せた気配を見せた。


「知りてーんだ?」
「うーん、そうだね。 できるなら、」


高尾君は突然カタリと音を立てて椅子から立ち上がって、
緑間君の席、私の目の前に立ち塞がる。

夕陽が差し込んだ高尾君の顔が眩しくて少し目を細めた。
どんな表情しているのかあんまり分からない。

机と椅子の背もたれに片手ずつついて、
彼は私を見下ろして、静かに言い放った。


「・・・なら俺が教えてもいい?」


・・・数秒考えたけど彼の意図が分からない。 何を。 どうやって?



(・・・? 高尾く、)
(他人にされるくらいなら俺が、ってさ。 多少は許されっかなー)
(高尾君・・何言って、 ・・・!!)
(・・無理なら抵抗しろよ、今日に限らず。
 多分俺、これからガンガン行くから)

(ちょ、っ待って 今、いま、)
(ちゅーしちゃったねー)
(待って、今、さっき高尾君、好きな人居るって、あれ?)
(・・・まだわかんねぇの? とんだ鈍感だな・・・)





 

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