短編棚

合宿前の電車とそれから
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「誠凛と合同合宿するらしーな」


缶ジュースのコーラに口を付ける直前そう言った高尾先輩に
あれ? と思わず顔を上げた。

見上げた先に居る先輩は、コーラを結構一気に飲んでいて
「あ、喉仏出てる」なんて妙なとこに目がついた。 結構声変わりしたのかな

割りとどうでもいいことを考えながら、顔を上げた理由を思い出す


「え、 そうなんですか?」
「え、桜ちゃん知らねーの? カントクさんから連絡ない?」
「はい。 合宿があるのは聞きましたけど、
 秀徳と合同というのは・・・」


・・カントク、言ってなかったよね?

言葉を濁らせた私に、コーラに半分口をつけてこっちを見た先輩が マジ? と。

「嘘だろ」と言いたげに私を見てきたので
私が言いたいくらいです。 と返した。


「あー、 でもドッキリ仕掛けそうな人ではあるわな 確かに
 お楽しみ奪っちゃったみたいになってごめんね?」
「いえ。 部員にバラさない程度に、リコ先輩と秘密共有します」


クスクス笑いを堪えていると、高尾先輩がちょっとほっとした顔になって。

何故そこで安堵したんだろう、と思わず見上げた。
それに高尾先輩も気付いて、思いがけず視線がバッチリ。

あ、 なんてどもった私に、高尾先輩は鞄の中がさごそして。
お目当ての物が見つかったのか、私の前に缶ジュースを差し出した


「冷たいのでよかったら。 ココア」
「っあ、 いただきます。 ・・貰っていいんですか、これ?」
「いーよ、元々渡すために買ったし。 飲んじゃって」
「・・・じゃ、ありがたく」



―――――



合宿、当日。
朝早く誠凛を出た私達は、電車に乗り合宿場へと着いた。

荷物の整理をしていたところに、秀徳のレギュラーが到着、
あそこまでリアクション合った先輩達には私達1年もびっくり

私は高尾先輩から、去年何があったかをある程度
耳に挟んでいたので、先輩達の気持ちは分かったのですけど。

あぁ、そうだ。

キャプテンが「だから知らせろよ!!」って胸倉引っ掴む勢いで
うちのカントクに詰め寄ってたということも言っておこう。

対してカントクは「あれー? 言ってなかったっけー」
というわざとらしい笑みを浮かべてた。

因みにその際、高尾先輩に会釈をしたら手を振り返した。
気付いてくれた辺りが先輩らしい。

あー、 と、 その時、先輩が口パクで「また後でな」と
言っていたような気がしたというのも言っておきます。


夕方までうちの、誠凛の選手達は砂浜バスケ。
あっちの、秀徳の選手達は走り込みと体育館に分かれて練習。

あ、私は午前、秀徳のマネージャーさんと
選手全員のお昼を作ったというのも言っておこう。

私達マネージャーの見えない支え。

夕方から両校での合同練習が始まり、試合形式でゲームやら何やら
タオルやスポドリの準備も慌しく時間が過ぎていった。

家庭の夕飯より、少し遅めの晩ご飯を終えて
私の仕事も一段落を終えました。

えぇ、今です。 今絶賛休憩中です。
リコ先輩と相部屋になりました。

疲れてバタンキューしてる私を、隣で見ていたリコさんが苦笑いしてた

リコさんはスケジュール確認してるらしく、
机に向かって座り、足を崩していた


「大丈夫? 冷えピタあるわよ」
「だいじょーぶです・・多分」
「ご飯くらいは私が担当しようかしら?」
「あ、私料理は得意なので大丈夫です」


・・・そう? と少しの合間と共に返された返事に、
そーです。 と返しておいた。

先輩達、今私さりげなく死亡フラグ折りましたよ。
褒めてください。 後で日向先輩に言いに行ってやろ。

変な覚悟を決めた矢先、廊下側から襖越しに階段を上ってくる音

隣の部屋の秀徳のマネージャーさんが上がってきた?
と思いきや、私達の部屋の前で足音は止まった


「もっしもーし 桜ちゃん居るー?」


思わずがばり、と敷いた布団から起き上がる。
リコ先輩が、あら。 みたいな顔で襖を見てた


「高尾君?」
「みたいです、行ってきます」


立ち上がって襖を開けば、風呂上りなのかまだ髪が湿ってる高尾先輩
Tシャツ半ズボンという割りとラフな格好をしてらっしゃった


「お。 時間ある?」
「どうも。 時間ならあります」
「コンビニ行くんだけど来る?」
「あ、行きます。 リコ先輩、ちょっと外出して来ますね」


気をつけてくるのよ、と言って手をヒラヒラ振ったリコさんに
会釈だけして、廊下の外に出た。

それにしても・・・流石真夏、暑いな。


「そいや桜ちゃん、風呂入った?」
「あ、はい さっき上がったとこで」
「やっぱ? 香るなーって思った」


でもこの辺湿ってるね、と後ろ髪を掬った先輩。
振り向いたら先輩の手から、私の髪がするりと通り抜けた


「あー・・疲れてたので、水が落ちない程度にドライヤーしたんです
 だからまだそれが湿ってるのかも」
「なるほど。 好きな子の風呂上りの香りってすげークるね」
「・・何言ってんですか、」


クツクツと笑いを堪える高尾先輩に、口元抑えてどうにか返答。
トントンと階段を降りて、玄関口に向かう。

廊下で曲がり角に差し掛かった時、高尾先輩の
ストップ、って声と、後ろから肩を引かれた

え、と読めないまま大人しくしていた2秒。
ぬっと姿現した、学校の先輩


「・・・あ、 黒子先輩」
「紅咲さんに高尾君」
「よー、黒子」


ひらひらと手を振る高尾先輩に、どうも と会釈をする黒子先輩
そんでじっと高尾先輩と私を見て、唐突に一言


「実際に見ると違和感ありますね」
「いきなりかよ」
「いえ、悪い意味ではなくて。」


ケラケラ笑う高尾先輩と、いつもどーりの黒子先輩。
・・・あぁ、私も黒子先輩が言ってた意味が分かった気がします。

黒子先輩と高尾先輩が、直に喋ってるの見るのが
初めてだから違和感たっぷりなのね。

多分私と同じこと言いたいのだと思います。


「外出ですか?」
「はい、そこのコンビニまで」

「夜道にはお気をつけて・・いえ、高尾君が居ますし大丈夫ですね」
「おー、桜ちゃんのボディガードやってくるわ」
「え、 お手数掛けちゃうなら私お部屋に篭ります」
「ここまで来といて!?」


高尾先輩に冗談ですよ、と笑い返して。
黒子先輩が仲良いですね、と小さく微笑んだ。

では、と会釈して通り過ぎていく黒子先輩に 私も同様に会釈して
高尾先輩は黒子先輩に向かって手をヒラヒラさせてた。

黒子先輩の後姿を、じっと見てた高尾先輩に疑問符浮かべて。
黒子先輩の姿が見えなくなった後、先輩は私に視線を移した


「・・・・実際に見ると違和感感じんな」
「先輩もですか」
「桜ちゃんもか」


顔合わせて笑って。 気を取り直して玄関口に向かった


「ゴリゴリ君なら奢るけどいる?」
「え、いいんですか ・・・っは、ありがたく受け取りますけど
 餌付けには引っ掛かりませんからね・・!?」
「ちょ、ちげーって!」



(う、わ・・・せ、先輩 星!)
(おー、よく見えるなー)
(きれー・・・)
(街頭ないからだろーな。 見事なもんだな)

(・・・・あ。 先輩、あれ北斗七星じゃないですか?
 私北斗七星って初めて見ました・・・! すごい、)
(・・っぷ、桜ちゃんはしゃぎすぎ)
(あ。 すみません、 ・・何か急に恥ずかしくなってきた)
(いやいや、悪いとは言ってねーよ。
 はしゃいでる桜ちゃんが可愛いなってだけで)





 

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