短編棚

数年越しの距離
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祝日。 月曜日、午後5時

数日分のおやつと翌日の昼ご飯の調達をしに、
スーパーに行くのが日課になっていた。

今日は少し家を出るのが遅くなったな、なんて思いながら
スーパーの中を歩き回る。

お昼ご飯・・・おうどんでいいかな。
おやつは何にしよう、

買い物かごを両手に、お菓子コーナーを見上げる。

ふと右に顔を向けた。 視界に誰かが映る。


「(・・・・あ、)」


コーナーとコーナーの交差点のところで、
高校生くらい? の男子3人の内の1人と目が合う。

・・・・あれ、どっかで見覚えが

見覚えのある男の子は、両脇に男の子を2人置いて
なにやら押し問答してるみたいだった。


「ちょ、待って!」
「いーから行ってこい!」
「うわっ、」


友達2人に背中を押された彼は、
歩くよりは少し大きめの歩幅で、私との距離を縮めた。

・・・・・誰かと思った。 見違えた。

彼は後ろに居た友達2人を恨めしそうに見て、
私を見るや否や、言いにくそうに「あー、」と頬をかいた。


「・・・・久しぶりだね。 高尾君だったかな」
「! ・・おー、合ってる。
 忘れられてたらどうしようかと思った」


苦笑いで私を見下ろす私服の高尾君。

最後に会った時よりもずっと、彼との目線が離れた気がする。
・・・175cmくらいあるのかな?

中1の時は私とあんまり身長変わらなかったのに。

男子の成長期って凄いなぁ、なんて


「学校行ってた時は席、隣だったし・・
 授業中に話した回数ダントツだから」


笑いながらそう答えたら、
「俺、そーゆー覚えられ方してんの」って笑われた。

あ、笑ってる顔変わってない。


「紅咲は買い物?」
「うん。 おやつと明日のお昼買おうと思って」
「昼1人なん?」
「両親が仕事だから」


そう言ったら、高尾君は少しだけ目を見開いて
なるほどね、っと呟いた。

ふと高尾君の後ろに居た友達2人の様子を見ようと、
少し体を反らす。 ・・・あれ、居ない


「お友達さん、居ないけどいいの?」
「あー、多分その辺ぶらついてると思う。
 満足行くまで話して来いってほったらかし喰らったから」
「・・・・私と?」
「・・お前と」


高尾君はまた困ったように頬をかいた。

・・・ふーん?
腑に落ちないような返しに、首傾けて頷いた。

ふと自分が手に何を持ってるかに気付いて、
彼の方にと向き直った。


「とりあえず、買い物しながらでもいい?」
「いいよ、付き合う」


買い物かごを片手に、もう1つ隣のお菓子コーナーに行く。
高尾君は私の後ろを着いていって、立ち止まった私の隣に立った。


「てか紅咲とまともに話すのも丸3年ぶりだな」
「クラス一緒だったけど席離れたものね」


笑いながら、お菓子を目の前にして選ぶ。

うーん・・グミやクッキーって気分じゃないな・・


「・・・元気だった?」
「うん。 あ、この間健康診断で採血して倒れたこと以外は元気」
「え もしかして紅咲、貧血持ち?」
「みたい。 結構重症なんだってさー
 後、針刺されるのが怖い」


苦笑いでそう言えば、「無理すんなよー」って返された。
付け足すように「あ、でも俺 針は平気だわ」というのも。

椅子から立ち上がるとか起き上がるとかしなければ大丈夫。 多分


「・・・なぁ、紅咲さ」
「ん、」
「高校行ってんの?」
「ん、 んー まぁ一応通信制の方に。
 あんま家は出ないから、高校生って実感も薄いんだけどね」


っていうか流石に中卒は厳しいしね、って返したら
そりゃそーか、って。

その後、少しだけ沈黙が流れて。
高尾君は俯きながら、少しだけ躊躇いつつ口を開いた。


「・・・後さ、もう1個聞きたいのあって」
「ん」
「もしかしたら触れちゃいけない部分かもしんないけど」
「うん。」

「なんで、学校来なくなったんかなって」


その言葉に動きが止まる・・・ということはなく。

あ、チョコレート食べよう と思ったらしい私は
板チョコを1つ買い物かごの中に入れた。


「別に高尾君が思ってるような深い意味や理由はないよ。
 好かれてはなかったかもしんないけど、いじめられてもないし」
「・・・・理由って聞いても平気?」
「授業に追いつけなくなったのと、・・・後は、疲れた、のかな」
「疲れた?」


疑問符をつけて聞き返した高尾君に、
少しだけ、当時のことを思い出しながら んー、と呟いた


「私、小学校の時にも不登校になってるの。 1年半くらい
 だから、頑張りすぎた反動で疲れたんかな ってのが予想」
「でも学校には来てた、よな?
 2年生の時、授業2回ほど来てたの覚えてる」

「まぁね。 でもそのすぐ後、別室登校もやめちゃった」
「それは疲れたから?」
「違う。 先生が大嫌いだった。」


買い物かごを片手に持って後ろに構えて、また私は歩きだした。
・・・その後ろで、高尾君が吹き出したような笑い声が聞こえて


「なによー」
「いや、心配して損した気分。 もし紅咲が知らないとこで
 傷ついてたらやだなーって、思っただけ。」


・・・ まぁ先生のせいで傷ついたとこはあるけど。
というのは言わなかった。

心配してくれてただけで充分だと思ったから
・・・その言葉が偽善でも?

自分も随分人間不信になったものだなー
なんて思いながら、コーナーを歩く。


「勝手な想像だけど、紅咲ってさ。 質問されたメールは返すけど
 どうでもいい内容のメールは返さなさそう」
「・・・大体合ってる」


突然自分の性格当てられてギクリ、とするけど
別に隠すことでもないし素直に答える。


「なぁ、紅咲」
「ん」
「俺がお前を遊びに誘ったら乗ってくれる?」
「・・・まぁ、用事がなければ」


まぁ通信制の生徒に用事なんて滅多にないけど。
・・その言葉も本人には言わずに喉の奥にと飲み込んだ。

ふと高尾君は歩いてた私を追い越して
立ち塞がるように私の前に立った。


「随分遅くなったけどさ 連絡先、交換しねぇ?」


顔の横にスマホ構えてる高尾君のその申し出に
え、 と話の内容が一瞬理解できず、思わず突っ立った。

数秒してその言葉の意味を把握して、
まぁいっか、って。 別に断る理由もないし、


「ガラケーのメアドでもいい?」
「全然いい! あ、紅咲ってケータイ携帯する子?」
「まぁ割りと」


送るタイプじゃなさそーだし、赤外線ちょーだい

って言われて、久々なのに、っていうか学校以外で
会ったことないのに私の性格よく分かってるな なんて。

そんなことを思いながら、自分の電話番号と
メールアドレスを彼のスマホに渡した。

流れるような操作をしながら「紅咲、っと」と彼は言った
アドレス帳登録をしたらしい。

そういえば私のケータイ、名前登録はしてなかった


「・・・でも何故に私? 自分で言うのもなんだけど、
 私可愛くないし、性格も結構めんどくさいよ?」
「あー、そこはほら あれだ。 ・・あれだよ」
「なに?」

「あれだよ・・・分かれよ!」
「言ってくれないと分かんないよ」



(・・・高尾君の後ろからお友達さんがチラッチラ見てる)
(あー、俺にも見えてる。)
(いいの、ほっといて?)
(ほっとけほっとけ。 紅咲いつもここのスーパー来てんの?)

(まぁ月曜日の午後に・・時間はまちまちだけど)
(6時くらいに居たりする?)
(それは流石に帰ってるかも。)
(マージでぇ どうすっかね)





 

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