短編棚

それからはこれからも
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「自分の首絞めるからあんま言いたくなかったんだけどさ。
 俺を好きかどうか確かめたいなら一度距離置いてみねぇ?」


最寄り駅から家までの帰宅途中、先輩と住宅街の間を歩きながら。

「未だに先輩のことが好きなのかどうか分からないんですよね」
と本人に打ち明けたら、「あー・・・」と唸りの声1つ。

そして冒頭の発言をされて、思わず瞬き2つ。


「確かめるために一度距離を置く?」
「そ。 だって土日の練習時間が重ならない時と
 朝練と部活が無い時以外、俺ら毎日会ってんじゃん」
「ですよね」

「なくして初めて気付く、って言うじゃん。
 あ、やべぇ コレ俺にすげー死亡フラグ立ってね?」
「大丈夫です、高尾先輩はしぶといので」
「ぶっふ、なんつーフォローだ」


お腹と口元抑えて笑い出す高尾先輩。
それに釣られて口元を抑えて「ふふ」と笑う

最近気付いたけど彼の笑いは釣られやすい


「でさ、それを試してみないかっつー」
「でもなんでそれが先輩の首絞めるんですか」
「うっっと!?」
「え」

「ここまでオープンに好きだっつってんのにそれ聞く!?
 好きな子にほぼ毎日会えるようにしたの俺だぞ!?
 それを!? 自分から距離置いてみないかーっつー提案してるし!?
 桜ちゃんに会えない日が何日も続くのかと思ったら首絞めまくりですけど!!」

「待って、先輩 住宅街で恥ずかしいこと力説しないでくれませんか」







自覚はしてたけど自覚以上だったっつー話をしよう。

自分の首絞めるなーと理解していながら、
桜ちゃんに一旦距離置いてみる案を提案して8日が経過。

本気で、本ッ気で好きだと自覚はしてたのに
実際会えなくなるともう「好き」どころの枠に収まらないなと
提案した俺が逆に気付かされてしまったわけだが。

いやだって。
まさかこんな本気で惚れ込んでたとは夢にも思わなかったわけで


「・・あー・・・ 会いたい、」


自室のベッドに寝転がりながらぼそりと呟いた独り言も、
俺しか居ない室内に聞き手は居ない。

俺は本当に毎日の行き帰りに桜ちゃんと会って話すだけで
1日どうにか保ってたんだな、とすら思う。

気紛らわしにと探索中でセーブしてたゲームデータを再開させたものの
全然手に付かなくて5分くらいでやめてしまった


「・・あー、会いたい」


自分から言った手前、俺が連絡入れるのもなー と思い
メールも電話も1つも掛けてない。

下手したら桜ちゃん不足で死ぬかもしんねーわこれ・・

スマホを枕元に置いてうつ伏せで瞼を閉じる。
寝ようにも彼女が脳内でちらついて睡魔すら来ねぇ俺マジ

枕元で鳴ったスマホのメール着信音に、閉じたばかりの瞼を開けた。
うつぶせになったまま、左手でスマホ操作してメールの確認

・・あぁ、噂じゃねぇけど 考えていたら本人だ。


”会いたい、な”


件名も無しに読点込みのたった6文字の本文

心臓締め付けるような感覚と、今すぐにでも家を出て
桜ちゃんの家に向かいたい衝動をどうにか抑えて、左手でスマホ操作


”俺も”

”家の前”


あまり時間差もなく、たった3文字で返ってきたメール本文に
思わずがばりとベッドから起き上がる。

枕元にスマホ投げて、慌てて窓に向かう最中でゴミ箱蹴っ飛ばした

いや、まさか。 ゴミ箱とかどうでもいいから。

窓から薄いカーテンを開いて玄関先を見ると、俺の家の玄関に背を向けて
スマホを片手に持ったまま、俺の部屋を見上げた桜ちゃんと目がばっちり。

え、ちょっと待って。 最初に桜ちゃんから来たメールって、
これ、自分の家から送ったんじゃなかったの。

俺の家の前で「会いたい」って、メール打って送ったの?

やべぇ、なんか、もう、いろいろと込み上げてきそうだ。

窓から離れて荒っぽく部屋の扉開けて、
閉めることもせず開けっ放しで慌てて階段を駆け下りた。

鼓動が加速してってるのが分かる、
なんつータイミング。 そんな狙ったような


玄関に辿り着くなり履きやすい靴に足を通す。
鍵を2つ開けて、玄関の扉を押して開けた。

左肩に鞄を掛けて、鞄の持ち手部分を両手で握り締めていた
約8日ぶりの桜ちゃんは、申し訳なさそうに困ったような顔をしてた。

玄関の扉から手を離して、何か言いたげに口を開こうとする
桜ちゃんとの距離を一気に詰めて抱きしめた

後ろで玄関の扉がバタンと閉まった音。

抱きしめる直前、彼女が驚いたような表情をしてた気がするけど
何の抵抗もなく大人しく抱きしめられてる。

あぁ、もう なんだ

とりあえずこれに懲りて距離置く案はもう絶対にしねーし
後ついでに遠距離恋愛も絶対に無理だと察した。

桜ちゃんを抱きしめる腕に少し力を込めると、「ん」と短い声

・・あー、ほんと 俺この子のことが好きなんだわ


「せ、先輩」


抱きしめられたまま、少し震えた声で俺を呼ぶ声。
怯えてるような声色じゃなかったから離しもせず「ん、」と短い返事


「あの、」
「ん」
「好き、です」
「・・・ん!?」


予想外の言葉に思わず桜ちゃんの両肩を掴んで引き剥がす。
目を丸くした桜ちゃんは俺と目が合った直後に俯いてしまった

えっ。 待って 今の聞き間違いじゃなければ


「ごめん、本当にごめん 俺、桜ちゃんに会えた嬉しさで難聴になったかも
 聞き間違いだと悪いからもう一度言ってもらっていい?」
「・・・・ 高尾先輩のことが、好きって ・・言いました、」
「・・っあー、マジかよー 俺、今絶対最ッ高にニヤついてる」



(桜ちゃんのおかげで俺の世界は今日も綺麗だァー)
(た、大層ですね・・)
(嘘じゃないよ)
(・・は、はい。 はい)





 

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