短編棚風

□お前は隣のクラスらしい
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話すつもりはなかった。 仮に友人であったとしても。
どこの誰とも知れぬ女になんてもっての外、論外。

・・・にも関わらず口を開いていた自分に思わず頭を抱えた。

重要な部分は伏せたとはいえ、言ったのは事実だ。 不覚。

同じ学校の人間であるということは制服で分かったとしても初対面、
缶1本奢られた借りもあるし、とりあえずもう1度くらいは会いたいと思う。

学年も名前も分からない。
記憶の中にある容姿の情報だけで人を探すにはどうすればいい。

比較的窓際に近い席の風間は、窓の外を見つめながら思考を巡らせた。


「風間君」
「ん」


不意に呼びかかった名に顔を上げる。 クラスの委員長の女だった。
見慣れた青い表紙のノートを抱えていた彼女はそれを風間に差し出す。


「これ休んでた日に返却されたノート」
「あぁ、ありがとう」
「考え事? ぼんやりしてた」
「・・・」


少し申し訳なさそうに聞く委員長に風間は幾度かの瞬きを繰り返す。
確かに考え事はしていたがそれほど顔に出ていただろうか。

・・・女の話は女に訊く方が早いか?

また少し考える表情に戻った風間に、委員長は頬を掻きながら待った。
不意に顔を上げた風間はゆっくりと口を開く。


「人を探している」
「人?」

「色素の薄い短髪の女。 知ってるか?」
「えっちょっと待って、友達に聞いてみていい?」
「あぁ」


それだけ告げると委員長は風間の席から離れ、
立ち話をしていた女子3人の中に飛び込んでいった。

あの委員長は控えめで大人しい印象を受けるが友人は明るい者が多い。

委員長を混ぜて4人になったグループの会話は一段落付いたのか、
4人の女子全員が一斉に風間の方に視線を向けた。

・・・なんだ揃いも揃って一斉に俺を見て。

若干眉を寄せた風間だったが、女共はわらわらと風間の席に集まってきた。
その中には勿論声を掛けただろう委員長の姿もある。


「女の子探してるの? ここの生徒?」
「そうだ」
「色素の薄い短髪の女の子?」
「そう」

「他の情報は?」
「悪いが一切ない」
「きっつくない!?」
「最早どういう経緯で知ったのか気になるね」


風間のばっさり切り落とした発言に女共はそれぞれ頭抱えたり、
困ったように笑ったりとそれぞれ反応を見せた。


「身長とかは?」
「・・・俺と変わらないくらいに見えた」
「160?」
「くらいかな」

「体型とかさ」
「・・やけに華奢だったな」
「どのレベルの華奢だ・・・?」
「女の子皆華奢だからな〜」

「・・・・委員長くらいか?」
「それガリ!!」
「ガリじゃん!!!」


その後も特定に使うのだろう質問がいくつか飛んで来たが、
まともに答えられたものはほとんどと言っていいほどなかった。

ヒントが少なすぎる。
自分の席の周囲で頭を悩ませる女子4人。

流石に無理かと1つ息を吐いた時、内1人が「なんか、」と切り出した。


「・・・隣のクラスにそんな人居なかったっけ?
 髪の色素薄くて短髪で160cmくらいの人」
「隣ぃ・・・? ・・・あー、山吹さんとか?」
「あ、成程。 山吹さんかぁ」
「山吹?」


聞き覚えのない名に風間は首を傾げた。
風間を除いた概ね全員が山吹の名を聞いて納得した雰囲気を見せる。

・・・思いあたりがないのは俺だけか。


「有名な奴なのか?」
「有名・・・か・・・?」

「山吹静香さんでしょ、私中学一緒だったよ〜。
 すっごい足速くて陸上部スカウトされるほどだったけど一貫して断ってて、
 でも断っていた理由は一切不明とかいうミステリアスエピソード持ち」


ぺらぺらと山吹という女の情報が垂れ流される。

・・・成程、女の話題は女に訊け。
『女子は噂話好きだよなー』 男友達の発言を不意に思い出す。

まだ会ったわけではないため本人かは分からないが、
フルネームと隣のクラスという情報は十分すぎるほどの収穫だった。

女子凄い。 仮に別人でももう1度訊けばいいと思った。


「体育祭のクラス別リレーさ、ずば抜けて速い女子1人居なかった?
 もしかしてあれ山吹さんだったり?」
「そうそう、山吹さん。 なんでか部活文化系なんだよね〜」
「えー、あんな速いのになんか勿体なーい」


・・・礼を言う間もなく風間の席の周りで会話が続く。

そこまでの情報を求めていたわけではないが、
女共は山吹静香という人物の言及が止まらない。

体育祭のクラス別リレー・・・よく見ていなかったな、見事に覚えていない。

黙って聞いていれば予鈴が鳴り、委員長を除いた女子3人は
「あ」「やば」などと短い反応を見せながら自分の席に戻っていった。

1テンポ遅れて委員長も風間の席から離れようとする。


「委員長」
「あ、うん?」
「礼を言っておいてくれ」
「うん」

「違ったらまた訊く」
「分かった」


短く簡潔に伝えた風間の言葉に、委員長も短く了承の言葉を述べた。

・・・知りたかった情報。
名前、山吹静香。 隣のクラス。

何故か知れた情報。
足の速さにまつわる謎エピソード。 部活は文化系。



■お前は隣のクラスらしい



(・・・昼休みにでも見に行くか、)





 
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