短編棚風

□君が決意固いと知ってる
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知った名が挙がったことに風間は足を止めて振り返ったが、
医者と看護婦は風間の様子に気づかずに会話を続けた。


「あんなに酷い怪我だと聞いたのに」
「妙に気味悪いですね」


2人は歩きながら会話しているから距離はだんだんと離れて行く。

不気味そうに続けられる会話に風間は思わず「すみません」と呼び止めた。
医者と看護婦は足を止めて、平均身長より低い男の姿を視界に収める。


「山吹静香さんの話ですか」
「君は・・?」
「同級生の風間です。 彼女の見舞いに来ました」


不思議そうに風間に声を掛ける医者に彼は丁寧に名乗った。

同級生。 先程の会話が聞かれていたから呼び止められたのだろうと察した、
医者と看護婦は少し慌てた様子で「悪口のつもりじゃなかった」と話した。


「気味悪いという発言が気にかかって・・・どういうことですか?」


問うようにして事情を聞けば、医者は彼女の容態を順番に話した。

病院に運ばれる彼女は重体だった。
大怪我による出血多量、意識不明の重体、骨折と昏睡状態。

怪我の代表フルコンボで緊急で真っ先に病院に運ばれたはずだったのに、
医者が診た時には出血多量と呼べるほど傷は深くなかった。

骨折はしているし意識も戻らないが呼吸も安定していた。
目が覚めるのも時間の問題じゃないか。

静香を病院に運んだ救急隊員は、その容態を見聞きして首を傾げた。

『確かに酷い怪我だったんだ』

1人くらいなら勘違いで済んだのに彼女を救助した全員がそう口にした。
これが勘違いでなければ、異常だ。

本来ならありえない回復スピードに医者も首を捻った、という話だった。


「(それってまさか、)」


サイドエフェクト・・・・

口にはしなかったが風間には心当たりがあった。
脳裏を過るその仮説は正解なのだろう、そうでなきゃ説明が付かない。

事情を話し終えた医者はバツが悪そうに頬を掻いた。


「だから悪口のつもりじゃなかった、許してくれ」
「いえ、俺は怒って呼び止めたのではなく・・・、
 ・・本職の方が不思議に思うのも致し方ないと思います」


風間の発言に不思議そうな表情を見せたものの、
医者と看護婦は少し安堵したように見せた。

・・・大変だな。 ただでさえ患者が多くててんやわんやしてるだろうに、
クレームまで受け付けられるような状態じゃないんだろう。


「・・・患者の情報を喋らせてすみませんでした。 お疲れ様です」


頭を下げた風間に医者は看護婦は「いやいや」と手を振った。
通路で2人と別れ、風間と改めて静香の病室へと足を向けた。







その日は見舞いに来てから帰るまでの1時間、彼女は目を覚まさなかった。

風間は翌日の昼下がりにも病院に姿を見せた。
待合室では三門の被害やボーダーの情報を取り上げたニュースが流れている。

受付に山吹静香の見舞いに来たと一言伝え病室に向かった。
それから彼女が目を覚ましたのは、風間が訪れてから1時間近く経った頃だ。

確かに驚異的な回復速度だ。 医者も驚いて当然だと納得する。
昏睡状態に陥った人が1日で目が覚めるなど聞いたことがない。

近界に関する知識が一切ない静香に、
風間は自身が分かる範囲でざっくりと概要を語った。

そこにはニュースでは取り上げていない情報も混じっている。

解説を耳にしている静香は信じられないような表情を浮かべているが、
彼女はネイバーの襲撃をモロに食らっている。 疑うのは今だけだろう。


「・・・山吹、」
「ん」
「俺と出会った時覚えているか」
「覚えてるよ」


校舎の外、花壇の縁に腰を下ろし暗い表情をしていた。
半年ほど前の記憶だが思い出すのは容易い。

彼は兄が亡くなったのだと言っていた。


「兄は近界関連で亡くなっている」
「・・・あー・・だから詳細は話せない、か」


ぽつりと呟いた静香に風間は頷いてみせた。

確かに平和なあの時期に別次元で殺されたなんて話したって信用は難しい。
風間本人も兄の死を報せられるまでは信じていなかったのだ。


「・・・近界関連とは深く関わらないつもりでいたが、気が変わった」
「?」
「俺はボーダーに入る」


風間は静かにそう宣言した。 決意に満ちた声だった。
意思が強い彼のことだ、こうなるときっと誰が何を言っても聞かない。

静香は幾度か瞬きをして目を伏せた。
情報が多すぎる、 少し整理する時間が欲しい。


「先程はお前を勧誘したが、どうするかは任せる」
「・・・考えとく」
「あぁ」



■君が決意固いと知ってる



(随分話し込んだが目が覚めたなら担当医呼んだ方がいいな)
(そうね。 ・・ナースコールでいいのかな)
(・・お前、余程酷い怪我だったらしいぞ)
(そんなに? ・・・そんなにか、まだ痛み残ってるしな)

(今目が覚めて上半身起こしてるのが不思議なほど)
(・・・うわぁ、担当医会いたくない・・・)
(昏睡状態にまで陥っていたとも聞いた)
(絶対気味悪がられてるじゃん・・・やだな、)





 
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