短編棚風

□君は私の心読んだみたい
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侵攻の爪痕が根強く残る中、侵攻から1週間が経過した月曜日から
三門市内の学校は全校集会から始まり、通常通り授業を始めた。

だが行方不明や葬儀、身辺整理などで通学してきたのは全体の3分の2ほど。

風間や静香は学校の指定通りに通ったが、
侵攻がどれほど三門に被害を与えたかは教室の様子から見て取れた。

ニュースの影響でボーダーの認知が急速に広まる、侵攻から2度目の日曜日。

日差しが強くなり夏本番を感じさせる昼下がり、
川の中央に建っているボーダー本部に再度風間と静香が訪れた。

迅から指定された時間より20分早く到着する。

以前のようにインターホンを鳴らすのかと思いきや、
風間は鳴らさずに直で扉へ向かった。


「今日は鳴らさないの?」
「今日は指定されているからな」


急に訪れた日にしか鳴らさないのか。
基準が少々謎だが確かにボーダー本部は家ではないからな・・・

風間は慣れたように本部への扉を開ける。
間もなく賑やかな人の話し声が聞こえてきた。

中に立ち入ってすぐ、先週出会ったばかりの迅が視線を2人に向け出迎える。

迅と立ち話していたのは眼鏡とヒゲの大人と、
深緑色の髪の少年と長い黒髪の少女、静香と年の近そうな男女2人だった。

会話を中断させた4人はそれぞれ風間と静香に視線を向ける。
風間を見るなりその大人は親しそうにひらひらと手を振った。


「おー、蒼也久しぶりだな」
「林藤さん、 ちゃんと連絡回してくれませんか」
「すまん、迅にも同じこと言われた」


どうやらヒゲを生やして眼鏡を掛けた大人の人は林藤というらしい。
そういえば先週風間が一瞬その名を出していた気がする。

ぼんやりとうろ覚えになってきている記憶を引っ張り出しながら、
静香は林藤と呼ばれた大人へ小さく会釈した。


「ようこそ、ボーダーへ。 俺は林藤だ」
「山吹静香です、よろしくお願いします」
「え、待ってよ。 女の人はさておいてこのちっこいのもボーダー入んの?」


林藤と静香の自己紹介に、不意に間を割って入った男の子は
風間を指して信じられないように怪訝な表情を見せた。

静香は不意に風間の顔を覗き見るが、
彼に特に表情の変化は見られず静かに瞬きをしている。


「蒼也は将来有望だぞ?」
「勝手に有望株にされても困るんですが」
「え、でも強くなるだろ?」
「・・・強くなります、当然だ」


ほらな。 林藤はケタケタと笑みを見せるが、
林藤とのやり取りを聞いていた少年は怪訝そうな表情から変わらない。

迅が軽く「ははは」と笑った後に口を開いた。


「太刀川さん学年どこって言ってたっけ?」
「俺高1」
「あのね、太刀川さん。 あの人年上だよ」
「!?」

「風間蒼也、高校2年だ」
「は!?」
「迅、月見以外の3人を連れて行ってくれ」
「了解です」


風間の年齢誤解が解けて早々、林藤の指示に迅が手招きした。
月見、というのは太刀川の隣に居た女の子だろう。

迅の手招きに応え後を追う太刀川と風間と静香の3名。
月見と呼ばれた少女は通りすぎた風間と静香に改めて会釈をした。

美人な子だな。 心の中で月見の感想を唱える静香の傍ら、
歩きながらの太刀川は依然として風間を凝視していた。


「・・・ほんっとーに高2・・?」
「しつこいな、高2だと言っている」
「うえー? 身長10センチくらい足りないんじゃねぇ?」
「そうらしい」


全然話してないのに風間さん返事に飽きてきてないかこれ。
若干投げやりな返答に苦笑いを浮かべる静香に、太刀川の視線が向いた。


「そっちの人は?」
「山吹だよ。 高2、風間さんと同い年」
「・・・この人はちゃんと高2に見える・・・」


風間に失礼な発言をバンバン繰り返す太刀川に、迅も静香も苦笑いだった。

迅の後を追っていると先週寄ったダイニングスペースの扉は素通りし、
ある扉を開けて中に入ると数字の書かれた扉がいくつかと、
室内の中央に並んだ横長の椅子が3つ。

ベンチの上には中学生ほどと思しき男女が1人ずつと、
ガタイのいい筋肉質な男が1人、向かい合って座って話していた様子だ。


「小南、レイジさん。 残りの3人着いたよ」
「そうか、なら始めよう」


レイジと呼ばれた男性が立ち上がると、
それに倣うように座っていた男女も椅子から立ち上がる。


「顔が見れるように円になるよう立って」


迅の発言にその場に居る7名が3つの椅子を囲むように円を作る。

迅の右隣にはソファに座っていた淡いオレンジ色のショートヘアの女の子、
その更に右隣には迅とよく似た髪型の黒髪の少年が。

更にそこから右回りに風間、静香、太刀川、レイジと並ぶ。


「じゃぁまず簡単に自己紹介しよう。 とりあえずざっくり名前と学年ね。
 おれは迅悠一、中3。 未来視のサイドエフェクトがある」
「・・俺か。 木崎レイジ、高2だ。 以上」
「シンプルだなぁ。 はい、次小南」
「小南桐絵よ、中1。 最年少だけどこの中じゃ一番先輩なんだからね!」


迅の両脇に居た2人がそれぞれ名と年齢と一言を述べる。

筋肉質でガタイがいいと思った男が同い年で静香は少し目を見開く。
隣に立つ風間と比べると同い年でもピンからキリまで居るなと思ってしまう。

小南と名乗った少女はまだあどけなさが残る顔立ちで、
近界民と戦う姿は到底想像できなかった。

小南の自己紹介を終えると、進行役らしい迅は1つ頷いてみせる。


「おれら3人がボーダー隊員、今日の説明役を受け持つよ。
 んじゃ嵐山から時計回りで簡潔に自己紹介」


迅が手を向けて促した方向は小南の隣に立つ黒髪の少年だった。


「嵐山准だ、迅と同じく中3。 俺は桐絵のいとこなんだ、よろしく」
「風間蒼也、高2。 兄がボーダーだった、侵攻を期に参加を決意した」
「同じく高2、山吹静香です。 回復系のサイドエフェクト、らしい?」
「高1、太刀川慶。 俺は幼馴染の誘いに乗る形だった」


ボーダー志望者らしい4人の自己紹介を終え、
太刀川の自己紹介が気にかかった静香は太刀川に視線を向ける。


「幼馴染ってさっき一緒に居た美人さん? 黒髪ロングの・・」
「そうそう、月見蓮。 なんでかさっき置いて行かれたけど」
「月見さんはサポートを希望したから別のグループで解説を受けているよ」


太刀川の疑問を晴らすように迅が補足する。

戦闘員以外の役職があるのか・・・
戦闘員のつもりでいたからこっちに割り振られたことに異論はないけれど。


「こっちは中高生の戦闘部隊なの。 迅とレイジさんで指導するわ」
「お前も教えろ」
「あたし教えるの苦手だから」

「小南なんで来たの・・・」
「レイジさんと迅についていけって言われたんだもん!!」


苦笑いを浮かべた迅と反論するような小南の様子に、
志望者全員がどことなく生暖かく見守る空気に入る。

迅は一旦志望者全員の顔を見ると改めて口を開く。


「ここからは一旦基礎知識がある人とない人に分かれよう。
 ボーダーやトリオンの事情を概ね把握してる人、手挙げて」


その言葉に風間が迷わず手を挙げ、
続いて若干首を傾げながら静香もおずおずと手を挙げた。

サイドエフェクトの解説があったため風間に概ねは聞いているが、
これは把握していると呼んでいいのだろうか。


「充分知っていると思うぞ」


小声で飛んできた風間の声に小さく笑って返す。
控えめな挙手だった自覚はあるけれど、思考読み取られたみたいだ。


「レイジさん、この2人に武器や換装の説明任せていい?」
「分かった」
「嵐山と太刀川さんはおれが受け持つよ」

「迅、あたしはどっち行けばいいの?」
「うーん・・・レイジさんとこ行って」
「了解!」



■君は私の心読んだみたい



(よし、換装したな。 とりあえず1周全力で走ってこい)
(・・わ、何これめちゃくちゃ動ける。 100m10秒以下出せそう)
(山吹足速いな。 ・・・あぁ、陸上部スカウトされていたのか)
(えっ風間さんなんで知ってるの)

(山吹さんって人、トリオン体差し引いても足速いわね?)
(風間も背丈のわりにはかなり速いな)
(これは是非生身でタイム測ってみたいわね!)
(・・・後で頼むか? 今日初対面だが)





 
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