短編棚風

□お前は何故か押し黙った
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諸々の説明終わったから、と嵐山と太刀川を連れた迅が、
トリガー解説の木崎チームに合流したのは静香のトリオンが回復した頃だ。

斬り落とされた腕のまま淡々と数字を述べる静香に、
事情の知らぬ嵐山と太刀川は戦々恐々と、様子を凝視する。

換装を解き腕が無事であるのを静香共々、
トリガー初心者の2人は胸を撫で下ろした。


「レイジさん、説明被るけどこの2人にも任せていい?」
「了解」


迅は先程まで説明を請け負っていた2人を木崎に引き渡す。
風間と静香が使用していたトリガーを回収し、太刀川と嵐山に手渡した。

迅ははいバトンタッチ、と風間と静香を連れて訓練室の外に出る。


「2人とも疲れた?」
「いや、平気だ」
「後半は突っ立って数字言ってただけだから」
「元気そうなら他のボーダー隊員に挨拶しよう」


思えばまだ中高生隊員だという迅、木崎、小南と、
本部到着直後に顔を合わせた林藤しか姿を知らない。

あ、いや、林藤と言えば先程オペレーター室に居るゆりさんの声は聞いた。
分かったと頷く静香に、迅は風間へと視線を向ける。


「風間さんは挨拶スキップもできるけど・・・どうする?」
「いや、俺も付いていこう。 久しぶりに会う人が多い」
「了解」







林藤さんの姪のゆりさん、忍田さん、
後は忍田さんと一緒に居たボーダー志望者の東さんと沢村さん。

今日で一気に沢山の人と知り合ったから顔と名前一致できないかもしれない。
頭を抱えながらぼやいた静香に「大丈夫大丈夫」と迅はへらっと笑った。

場所を移動して先日迅と立ち話していたダイニングのある部屋に立ち入り、
出されたお茶を飲みながら偶然本部にあったらしい菓子をつまませてもらう。


「いろいろ説明したけど、正式入隊は本部基地が完成してからになると思う」


向かいの席に座る静香と風間を視界に入れながら、
菓子をもぐもぐと食う迅はゆっくりとそう告げた。


「本部基地って、ここじゃないの?」
「今はね」


不思議そうに首を傾げる静香に、迅は頷いてみせた。

静香の隣に座っている風間の菓子を食う手は止まらず、
ひょいひょいと口に運んでいる。 頬が膨らんでいる。


「今日は会わなかったけど他にも城戸さんって人が居てね。
 その人の話によるとかなり大規模な組織になるみたい」
「へぇ・・・」
「それに伴って基地を新設するんだって。 ここじゃ収容しきれないから」
「あぁ、成程」


延々菓子を食っていた風間が納得したように返事を見せた。
皿に並べられた菓子は既に半分が風間の胃に収まっている。


「大規模な組織って、こう・・・具体的には?」
「ざっと3桁4桁かなぁ」
「・・・待て、それ人間の数か?」
「そうだよ」

「えっそんなスペースどうすんの、場所とか建設とか」
「場所は東三門、もっと具体的に言うと門出現による建物崩壊地域。
 建設は・・ざっくりとしか聞いてないけど、トリオン使うっぽい」
「と、トリオンを・・・?」


生命エネルギーに近いものだと認識したトリオンを基地建設にどうやって?

疑問符を飛ばしまくる静香に迅は笑みを浮かべ、
風間は納得したのか定かでない表情で少し悩む表情をしていた。


「基地建設の完成日は?」
「明確な日時は分からないけど、完成目処は年内」
「年内・・・」
「予定通りなら半年ほどだな」


半袖で暑さに嘆く気候が、長袖で寒さを嘆く気候に変わる。
入隊まで思ったより時間掛かるな、いや、まぁそんなものか。

少し肩を下げて悩む様子を見せる静香に、迅はにこりと笑った。


「それはそれとして月1くらいでここにおいでよ。 意思確認も兼ねて」
「・・・意思確認、」
「いくら換装していても戦闘、安全とは言い切れないからね」


目を細めて静かに述べる迅に空気が一瞬張り詰めた。
その空気に息を詰まらせるが、迅の発言で思い出したようにピンと来た。

中高生で7人集まった場の自己紹介で風間が言っていたじゃないか。

『兄がボーダーだった』 でも、兄は亡くなった。
木崎に説明されたように換装し、トリオン体だったけれど、それでも死んだ。

少し浅はかだったかもしれない。
ボーダーを諦めるという気持ちは湧かなかったが、考えは改めようと思った。

菓子を食べる手も、コップを口に運ぶ動作もほとんどない。
しん、と静まり返った空間で不意に迅がコップに入った茶を喉に流し込んだ。


「後はあれ、あ、これレイジさんの受け売りと伝言なんだけど」
「?」
「トリオン体は生身の動きの感覚が元になっている。
 だから身体鍛えるのがお勧め、動きやすさが格段に変わる、だって」
「走るか」


迅の言葉をあっさり飲み込んでしれっと告げたのは風間の方だった。
決意が早い。 そしてちゃんと実行してくるだろうことは想像が付いた。

身体の鍛え方に今まで縁がなかったのでピンと来ない。
何なら鍛えられるのだろう、方法は沢山あると思うけれど。

しばらく考え込む静香が、不意に口を開いた。


「・・・高校2年から陸上部ってアリだと思う?」
「陸上ってかなりシビアなイメージあるけどどうなんだろう?」
「山吹なら良いと思う」
「山吹さんならって?」

「陸上部の熱烈スカウトを蹴った女だと聞いている」
「えっ、足速いの? 山吹さん」
「速い方だと思う、毎年クラスでタイム争いしてる」
「はっや!?」

「俺は見てないが体育祭クラス別リレーの選手に選ばれるほどだと」
「寧ろなんで今までそれで陸上部じゃないの?」
「俺もその理由までは知らないが・・・」
「・・・・」


静香は急に口を閉ざして複雑そうに笑った。



■お前は何故か押し黙った



(風間さんなら理由を推測できるよ)
(・・・? ・・・)
(風間さんまで考え込んじゃったよ・・・
 まぁなんらかの理由で断ってたんだね?)
(うん)

(今は陸上部入れるの?)
(今なら入れる。 体力面はちょっと心配だけど)
(陸上部なら走るでしょ、体力は勝手に付いてきそう)
(・・・山吹、後で答え合わせしてくれ)





 
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