短編棚風

□君は意外と足が速そうだ
1ページ/1ページ






窓際の席は好きだ。
代わり映えしない教室で、移り変わりが楽しめるのは窓際が一番だと思う。

授業終わりの放課後、静香はぼんやりと窓ガラス越しの空模様を眺めていた。

白い雲がところどころある青い空は雨が降る気配を感じさせず、
しばらくは良い天気が続くのだろうなという想像が簡単につく。

同じクラスの生徒達はそれぞれ部活へ向かったり帰ったりと、
半数近くが教室から出ていっていた。

後10分もすれば更に人が減るだろうことも想像が付く。

1年の頃よく話しかけてくれた友達とはクラスが別れた。
最近、会話することの多い男子生徒とはまたもクラスが別れた。

静香は友達は正直少ない方ではあったがそれを苦に思ったことはない。
特に話しかけられることもなく教室の片隅にぽつんと座っていた。

開きっぱなしの教室の窓からは外の音も適度に拾っており、
開始前と思しき部活の声出しや雑談などの喧騒が教室内に届いた。

そろそろ帰る準備をしようか。

ゆっくりとした動作で席から立ち上がり、
机の上に出しっぱなしだった筆箱の中身を片付ける。

立ち上がることで外の様子が目に付きやすくなり、不意に窓ごしを見た。

中央玄関出入り口の真上に位置した静香の教室は、
登下校する生徒の姿がよく見える。

校舎から猛ダッシュで出て行く男子高校生が3人現れた。
更にその後を物凄い勢いで追随する一回り小さな男子高校生。


「うわ風間はっや!!」
「スクバ持ってこの速度何!?」
「チビなのに! チビのくせに!!」


あ、やっぱり。 風間さん。
見覚えのある姿を珍しい角度から見て新鮮さを感じる。


「てか無言なのが怖い!!! これ別れる!?」
「足遅い奴狙われるだろ!!」
「それ俺じゃん!!」


全速力で走りながらの会話はたちまち遠のいていく。

前方を走っていた男子生徒3人は門で両サイドに1人と2人の二手に別れ、
風間は迷いなく2人居る方向へと駆けていった。

・・・成程、彼にも高校生らしい一面があるらしい。

どこか珍しい姿を見たような気がして、静香の口が緩む。

まだ衣替えも行われていない長袖長ズボンの制服で、
全速力ダッシュって物凄く暑そうだけれど大丈夫なのだろうか。

いや、ていうか、あの3人、なんで風間さんに追われているんだろう。
喧嘩とかいう雰囲気ではなかったけれど。

全力で悪ふざけ? うわ、ありそう。
風間さんのことよく知らないけど。

窓からはもう姿の見えない男子高校生4人を見送り、
教室の中を見渡してみると静香以外誰も居らず、がらんとしていた。

窓を眺めているうちに閑散とした教室の端で、
静香はようやく本格的に帰り支度を始めた。



■君は意外と足が速そうだ



(そういえば彼の部活なんだろう。 運動部じゃなさそうだな)





 
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ