短編棚風

□君に誘われるとは予想外
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残暑も落ち着いてきて過ごしやすい気候になりつつある10月。
高校3年は受験が忙しい時期のため2年で修学旅行をする高校が大半だろう。

大規模侵攻という酷い爪痕が残った三門市内の高校も例外ではなく、
それは中止されることなく予定通り行われた。

初日は班での行動、2日目は1日のうち半分が自由行動であったため、
クラスメイトに声を掛けられた風間は男4人でふらりと行動していた。

友人達の希望に付き添う形で連れ回されている中、
不意に1人がどこかに視線を向けて「お」と声を出した。


「同じ制服」
「あー、あの髪色山吹さんだな」


聞き慣れた名が挙がったことで風間の視線はそちらへと向かった。
友人達の視線の方向を見やれば確かに彼女らしい後ろ姿。

店の前を通りかかってそのまま足を止めたような雰囲気の静香は、
周りに連れなどは居ないようで1人であることが伺えた。


「山吹さん最近髪伸びた?」
「ずっと短かったよな」


友人達の声に言われてみれば、と静香の髪を見やる。

色素の薄い髪は真冬だった初対面時でも短く、
首周りが寒そうだと思っていた記憶がある。

まだ括れるほどの長さはないようだが、
カチューシャやヘアピンならあの長さでも仕事を為すだろう。


「先行っててくれ」
「おぉ?」


不意に足を止めた風間は静香の居る方向へと足を向けた。
特に引き止めもせずに風間の後ろ姿を見送る男子3名。


「・・・最近風間、山吹さんと一緒に居るとこよく見かける気がする?」
「あー、やっぱ気の所為じゃなかった?」
「自分から女子に話しかけるの珍しいよな」







大規模侵攻が明けてから、風間と静香の会話頻度はぐっと上がった。

互いに予定さえ入っていなければ土日のどちらかは、
迅の助言もあり玉狛に位置するボーダー本部を訪れることが多かった。

雑談だけの日、訓練室を借りる日、本部で何をするかは定まっていないが、
これから組織に属する者同士、仲間意識が強いのだと思う。

店先の商品に目を奪われているのか、歩み寄る風間に静香は気付かない。


「山吹」
「わ、風間さん」


視界の端からひょこりと現れた風間にぴくりと肩を揺らす。
静香の手元には紫の色が綺麗なストラップがあった。

彼女は気が抜けたように眉を下げて笑みを浮かべる。


「神出鬼没だなぁ、驚く」
「あまり驚いた声には聞こえないが」
「わりと驚いてるよ、本当に」


とは言えそのように聞こえぬことも本当なのだ。
静香の声のトーンが変わりづらいことは知っているのだけれど。

それ以上の言及はせずに風間は改めて隣に立つ静香を見やった。


「1人か?」
「そうだよ。 のんびりしてる」
「1人で居たいとかでないなら、暫く居てもいいか」


予想外の申し出に静香の目がぱちくりと瞬きを見せる。

風間は今先程まで静香が見ていたストラップの商品を、
商品棚から手に取っては視線を落とす。

成程、確かにこれは女が好きそうな。
日差しできらりと光る赤いストラップは確かに綺麗だと感じる。

静香からの返答はなく、驚いたような視線だけが刺さっている気配がする。
ストラップから視線を外して静香を見やれば、難なく視線が交わった。


「邪魔ならいいが」
「いや、 いいよ」


まずは否定、そして一拍、からの了承。
静香はどこかぽかんとしていた様子だった。



■君に誘われるとは予想外



(風間さんと自由時間行動するのは予想してなかったな・・)
(俺もだ。 ・・・今のは驚いているように見える)
(やだな、人を常ポーカーフェイスみたいに)
(・・・)

(え、ちょっと。 そこまで表情も感情も薄くないよ多分)
(知ってる)
(・・・)
(最近は少し分かってきた気がする)





 
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