短編棚風

□お前は不思議がっていた
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本部基地完成とほぼ同時に行われた正式な入隊式は、
玉狛にある本部とは違い少々ヒリつくような空気が漂っていた。

技術者や職員も一堂に集められ、城戸司令からの直接な挨拶が行われる。

ボーダーでの注意事項などを諸々終えた後はそれぞれ役職ごとに分けられ、
戦闘隊員は仮想訓練室に案内された。

近界民と模擬戦が行える1つしかない仮想訓練室で、
名が呼ばれた順に討伐までのタイムを測る。

ポイントが4000になれば正隊員になれるという説明を受けはしたが、
ランク戦でポイントを取り合うにはまだ隊員が少なすぎる。

そのためランク戦は次の入隊式で人が増えるまで封印とされ、
封印の措置として既存のボーダー隊員との模擬戦闘を繰り返し、
後日ボーダー隊員の評価によるポイントの上乗せが行われた。

学校を終えた後に訪れたボーダー本部基地。

風間と共に左手の甲に現れた数字を確認していると、
学校帰りと思しき太刀川と遭遇し、話の流れで本部基地の散策へ。

本部基地はかなり広く作られており、
迅の言葉通り3桁4桁規模の組織になるんだと実感する。

とは言っても現在の隊員、職員の総数はまだ3桁には程遠く、
人数のわりに広すぎる建物が妙に不釣り合いで違和感を覚えた。

基地の地図を覚えるという名目で概ねの移動や部屋の立ち入りが許された。
あらゆる『前提』で作られた基地は広さのわりに移動できない区画も多い。


「あれ、行き止まり」
「ここは・・・隊の作戦室用の区画か」


行き止まりの壁には通行止めの文字と区画の用途予定が表示されている。
人数が少ないためかいずれ隊を組むという話はまだ聞いていない。

感嘆の息を吐く静香はまじまじと予定表に目を通している。


「隊も組めるようになるんだ。 そこまで決まってるのね」
「確かに侵攻から半年でこの完成度は凄いな」


殺風景な廊下を見渡す風間に、太刀川は廊下を小走りで駆けて行く。
落ち着きのなさそうな太刀川を風間は冷めた目で見つめている。


「散策もいいけど早く戦いてーなー」
「正隊員になってからな」


【風間蒼也 孤月3200】

不貞腐れるのを窘める風間だが、太刀川は口を尖らせ不服そうなままだった。


「ランク戦封印されてんのに正隊員なれるのいつになんだよ」
「訓練室が解放されてるから鍛錬はいつでもできるだろう。
 お前ならランク戦が解放されたらすぐだ」
「そうだよ、合同訓練もあるし。 太刀川君やけにポイント高かったし」


【山吹静香 孤月2700】

肩を下げて笑う静香に太刀川はふふんと鼻を鳴らし、
両腕を腰に当てて得意げに仁王立ちをする。


「忍田さんに稽古付けてもらってたからな!」
「あ、いいなー。 私も一度くらいお願いすればよかったかな」
「俺の師匠だからダメでーす」


【太刀川慶 孤月3500】

行き止まりでもたつくこともないと歩き出す風間の後を太刀川が追う。

今まで通っていない道に入り込む風間だが迷ってはいないのだろうか。

似たような道に辺りを見渡しながら、
静香は心の中でさっきはこの道から来たと再確認をし、風間の後を追う。

風間が先頭を歩く形で後ろを付いていく太刀川と静香。
不意に太刀川は思い当たったように静香に顔を向けた。


「つーか山吹さんトリオン回復すんなら弾使えばいいのに、アステロイド」
「そういえば孤月以外考えたことなかったな・・」


太刀川の言葉にそういえばそうだな、と首を傾げる静香。

静香はサイドエフェクトの影響もあり特にトリオン切れが起きにくい。
その点で考えると確かに弾トリガーの方が相性は良い気がする。

会話が耳に届いていたらしい風間は歩きながら振り返りもせずに口を開いた。


「山吹は足速い分攻撃手向きだから孤月がハズレということはないだろう。
 サイドエフェクトにわざわざ武器を合わせることもない」
「そりゃそうか、実際孤月でスコア高いもんな」
「いやぁ、風間さんと太刀川君には敵わないけれど・・・」


フォローを入れた風間と納得を見せる太刀川に、静香は肩を上げて笑う。
太刀川の言葉が脳裏で反復し、静香は自らの右手を見た。


「・・・なんで私孤月なんだっけ?」


特に何の違和感もなく孤月であるのが当然だと思い握っていたけれど。

アステロイドは撃つのに向き不向きがあるとは聞いたけれど、
訓練室を借りて試し打ちした際は特に苦手だとは思わなかった。

使い慣れてきた孤月で行こうと決心した記憶もあるけれど。
それに至るまでの決定的な理由が特に出てこなくて首を傾げる。

風間はその様子を見て少し考えるように視線を落とした。


「・・・お前迅に何か言われてなかったか」
「迅君?」

「予知で、孤月がどうとか」
「あ、それかぁ」
「なになに?」


思い当たった静香と不思議そうに首を傾げる太刀川。

侵攻明けの日曜日に本部に訪れた際サイドエフェクトの話になって、
自分にも何か未来が視えているのかと聞けば、
『孤月を片手で扱っているのが視える』と言われたことを話す。

すると太刀川は納得したように間延びした声で「あ〜」と頷いた。


「じゃぁ迅の指示なのか」
「指示ってほどじゃないけれど・・でも確かに迅君の発言は大きいかも」


静香はゆっくりと目を伏せて「不思議ね」とぽつり呟いて笑った。



■お前は不思議がっていた



(俺は山吹さん孤月良いと思う、用心棒的な謎の雰囲気がある)
(用心棒)
(太刀川お前もだろ)
(えっ俺も用心棒!?)

(・・・太刀川君どっちかというと刺客っぽくない?)
(2人してなんだよ、俺は結局用心棒なの? 刺客なの?)
(刺客に1票)
(刺客だな)






独自設定すぎて公式発表あった時が怖い。



 
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