短編棚風

□君は多分耳傾けるだろう
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本部基地建設から半年もすれば、ボーダーへの認知はとっくに広がり、
侵攻の被害を受けた人や三門を守りたい人を中心に隊員が増えてきた。

最初の1ヶ月ほどは職員技術者含め全員の名と顔を覚えきれたものだが、
訓練生込み3桁近い隊員と他の職員、技術者が加わるともう追いきれない。

必要に応じて顔馴染みを増やしていきながら腕を磨く中、
隊員にランク戦開催予定のお知らせが流れ始めた。

正隊員でチームを組んでランク戦を行い順位を付けるという話だった。
備考欄にはランク戦上位部隊にはA級認定の昇格試験があるとの記載がある。

訓練生はC級、正隊員はB級という扱いだったがA級は存在しておらず、
人が増えればA級という枠組みもできるだろうとの話はぼんやり聞いていた。

A級になれば近界民討伐の出来高制から基本給も発生するらしい。
その上でチーム戦の好奇心から、各所でランク戦の話題が持ち切りだ。

ボーダーで話題沸騰のランク戦開始までしばらくの期間がある。
スカウトとして声を掛けられている場面も既にいくつか見ていた。


「(チームかぁ)」


ざわめいているラウンジの喧騒を耳にしながら、
学校の課題を片手間に静香はぼんやりと考えた。

強くはなりたいけれどA級認定は正直どちらでもいい。

チームによる三つ巴四つ巴のバトルは正直面白そう。
かと言って全く知らぬ人だけでチーム組むのは少々気が引ける。

思考がランク戦の話題に奪われ、進まない課題から目をそらしペンを回す。


「山吹さん?」


不意に掛けられた声にペンを机の上にカンカラと落としてしまう。

落としたペンを追いもせずに顔を上げるとボーダーのB級隊服を来た、
見知らぬ男の人がテーブルの近くに立っていた。

顔と名前を一致させるために確認するような問い。


「山吹、です」
「やっぱり! わー初めまして、火谷大和って言います」
「初めまして、山吹静香です」
「存じております」


くすくすと明るい笑みを浮かべる火谷と名乗った男性に瞬きを繰り返す。
跳ねっ毛のようで無造作に散らばった髪の毛。

表情はどちらかといえば明るく爽やかな印象で、
若干嵐山に近い空気を感じなくもない。


「火谷大和、大学1年、シューター、入隊は2ヶ月くらい前の正隊員です」


自己紹介始まった。 大学1年というと自分より1つ上。
指折り数えながら他に言っとくべき情報はなんだと唸る火谷。

一頻り悩んだ後に「まぁいいや!」とあっけらかんと自己紹介を中断すると、
火谷は座っている静香に手を差し伸べて頭を下げた。


「単刀直入に申します! 俺とチーム組みませんか!」


あっ、これスカウトか。

ここに来てようやく事態を飲み込んだ静香は自分に人差し指を向けた。
顔を上げるとスカウト対象が自身を指しているので火谷はこくこくと頷く。


「オペレーターは決まってるんだ。 隊員は今現在進行形でスカウト中で、
 もう1人声掛けたい人が居るなぁって感じ」
「・・・えーっと・・もう1人の候補のポジションは?」
「アタッカー! だから上手いこと行けば攻撃手2人の射手1人チーム!」

「上手いこと行けば」
「そう上手いこと行けば。 無論フラれる可能性も大いにあります」


手を目元に持っていき、よよよと嘘泣きする火谷に静香はくすりを笑みを零す。

まさか自分に声が掛かるとは。
能力を買ってくれてのスカウトなのだろうから申し出自体は嬉しい。

火谷さんは悪い人じゃなさそうだけど、
見知らぬ人とのチームは躊躇いがあるからなぁ。

しばらく首を傾げて悩む表情を浮かべる静香を火谷は心配げに見守っている。


「・・・2日、でいいので、少し考える時間いただけますか?」
「勿論! あっ、連絡先あった方がいい?」
「あると嬉しいです」


椅子の上に乗せていた鞄からスマホを取り出した静香に、
火谷もバッグからスマホを取り出す。

連絡先を交換して互いの登録を確認し「オーケー!」とにっこり笑う火谷。


「その間にもう1人のスカウト決まったら俺から連絡します!」
「ありがとうございます」
「因みにだけどオペレーターは梅林桐花! 俺とタメ!
 偶然知り合ったらよろしくお願いします! 山吹さんまたね!」


押し付けがましくないのに嵐のような人だった。

手を振りながら去っていく火谷を、同じように手を振りながら見送る。
火谷の姿が見えなくなってから登録された連絡先の画面に視線を落とした。

・・・・スカウト、されちゃったー・・・


「(・・・風間さんに話してみるか)」


彼に報告したからといい、特別何か解決するわけではないけれど。



■君は多分耳傾けるだろう



(風間さん、今日晩御飯ご一緒しない?)
(お前から飯の誘いは珍しいな。 どこに行く)
(洋食選択できればどこでも)
(ファミレス)

(妥当。 風間さんなら適当に話聞いてくれそうだと思って)
(相談、報告、愚痴、独り言、どれだ)
(半分独り言、半分相談と報告?)
(分かった。 今本部か? 後で行くから落ち合おう)





 
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