短編棚風

□彼は心底嬉しそうだった
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試行数が多ければ多いほどパターンも見えてくるし慣れもするだろう。
至極当然な思考回路はお互いに一致し、自他問わずログを引っ張り出した。


「あー、この対処は良いね」
「これは参考になるな」

「この人は動く時あんま考えてないな」
「この場面は俺ならこう動く」

「あ、こっち迅君と太刀川君のログだ」
「やっぱりずば抜けて強いな」


平和な世界で生きてきたから戦闘に関する知識は疎かった分、
2人なりにその穴を埋めようと度々意見交換をした。

トリガーも次々に開発され、環境だって変わっていく。
昨日通じたことも今日開発されたトリガーで明日には通じなくなるかも。

特に風間は努力を怠らない人間だったため、
静香も半分引きずられるように努力して考えた。

同一人物から別のタイミングでスカウトを受けたと知ってから翌日、
火谷のログついでに意見交換をラウンジで交わしていた2人に声が掛かった。


「あれ? 風間さんと山吹さん?」
「あ、火谷さん」
「こんにちは」


1日ぶりに見たスカウト対象2人が同じ席で向かい合ってログを見ている。

火谷は不思議そうな顔をして風間と静香を見やった後、
恐る恐ると言わんばかりにゆっくりと口を開いた。


「・・・お2人さんは付き合っていらっしゃる?」
「ふふ」


火谷としては渾身の質問だったが、それに静香は吹き出すように笑った。

吹き出す静香を一瞬見やった風間は、
目を伏せて冷静に「違いますね」と否定した。


「うん、違うね」
「あっ、違うんだ・・・」


口元を抑えて若干衝撃だった様子を見せる火谷に、
高校が同じ六頴館で同い年、ボーダーの入隊時期が一緒だと伝えると、
火谷は更に驚いたように目を見開いた。

反応を見ればどうやら2人の仲を知らずに声を掛けたのだと想像ができた。

笑いながらそっかそっか、と笑みを見せる火谷の傍ら、
答えが出ている静香と吟味を終えた風間は顔を見合わせる。


「ぶっちゃけもういいよね?」
「そうだな、もういい」
「うん?」


2人の会話の真意を読めない火谷を視界を端に置いたまま、
がたりと席を立つ風間に、倣うように静香も席から立ち上がる。


「火谷さん、今スカウトの返事良いですか?」
「あっ、2人同時!? どうしよう同時に断られたら心が折れる」
「ご安心ください」


焦るように胸元で手を合わせる火谷にフォローの言葉を入れる静香。
一瞬動作が硬直した火谷は幾度は瞬きを見せた。


「スカウトお受けします」
「風間さん共々よろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げて顔を上げた風間と静香を見比べ数秒、
火谷は分かりやすくガッツポーズをした。


「っしゃァ!!」
「この喜びよう」
「余程嬉しいんだろうな」
「めちゃくちゃ嬉しい!! 2人ともよろしくお願いします!」


抑えた声量でわー、と発しながら火谷は感激気味に小さく拍手を送る。

今日もランク戦の話題で染まるラウンジの一角で隊が結成された。

射手の火谷を隊長とした攻撃手2人、山吹静香と風間蒼也、
後は風間と静香はまだ出会っていないオペレーターの梅林桐花。

話を聞くに学年1つしか変わらない非常に年の近いチームだ。


「梅林には会った?」
「いえ、まだ」
「呼んできます!!」



■彼は心底嬉しそうだった



(火谷さん行っちゃった)
(実行力のある人だな)
(ふふ)
(・・・なんだ?)

(忙しないをオブラートに包んだのかなと思って)
(そうでもない)
(梅林さんどんな人だろ)
(なんだかんだオペレーターと直接会話する機会ないからな)





 
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