短編棚風

□君は合わせてくれるよね
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もう半年もすれば高校を卒業するんだと思うと、
学校生活って案外長いようで短かったなぁという思いにふける。

ボーダーに所属してからは授業も度々早退したものだから、
授業に追いつくのはわりと精一杯だった。

自分のクラスより少しだけ授業の進みが早い風間さんに、
ノートを見せてもらう始末だ。 彼もボーダー隊員であるのに。

あらゆる面で隙がないように見える風間は適当に手に取った本に目を通し、
たまに書き写しの様子を伺いに顔を上げる様子が視界の端に映る。

図書室の一角でノートを書き写ししていた分が終わり、
静香はシャーペンを机に置いて背伸びをした。


「終わったか?」
「終わった。 風間さんありがと」
「いや、いい」


テーブルの上に出していたシャーペンや消しゴムを筆箱にしまい、
開いていた2冊のノートを閉じて静香はその場から立ち上がる。

彼も読んでいた本を閉じて席を立った。

改めて礼を述べてノートを返すと、彼はじっと私を見つめる。
・・・見つめられているけど視線が合わない。 どこを見ているのだろう。


「髪伸びたな」
「長い髪憧れだったの」


彼の発言で疑問が解けた。
成程、風間さんが見ていたのは髪だったのか。

鎖骨くらいまで伸びた髪は、鏡がなくても静香が自分で視認できる長さだ。

彼女が風間と出会った頃は鏡がなければ見えないほど短かったため、
今の長さが少し物珍しいのだろう。

風間の視線は彼女の髪から離れない。


「どこまで伸ばすつもりだ?」
「うーん、満足するまでかな」
「そうか」


短い相槌と同時にゆっくりと差し出された手は静香の髪に向かった。
突然の動作に驚き少しだけ身を引くと、風間の指先はそこでぴたりと止まる。

言葉のない数秒のやり取り。 ・・・髪触りたいのか、

彼の意図が分かってゆっくりと頭の位置を元の場所に戻すと、
風間は改めて指を伸ばして彼女の髪を掬った。

色素の薄い髪が彼の指に絡まり、静香は緊張気味に視線を落とす。
小さく詰まった息に風間が気付いているかどうかは定かではない。


「楽しみだな」
「・・・」
「きっと似合う」


息を吐き出すように表情が和らいだ風間が笑みを見せる。
落とした視線を少しだけ上げると視線が絡まった。

彼の指は依然と静香の髪に指を絡めたままだ。 近い。

図書室に委員の生徒以外の人気はほとんどなく静寂に包まれている。
自分の脈が妙に速いのが分かる。 ・・許して、しまったな。


「・・・弱ったな、」
「どうした?」


呟くようにして眉を下げて笑みを零す静香に、
彼は表情筋があまり変わらないながらも不思議そうな表情を見せた。

緊張、は しているけれど。
それ以上にこの距離を許した自分が不思議で。


「風間さんと居ると気緩んじゃう」
「良いことじゃないか」
「そうだね・・」
「嫌なのか?」


晴れやかとは言い難い相槌に、彼の赤い瞳が真っ直ぐ静香を見据えた。
幾度か瞬きを繰り返した後、未だ髪に絡められた風間の指に視線を向ける。

嫌、というわけじゃないけれど。
少しだけ残る恐怖心は記憶にこびりついてしまった。


「・・・諦めて人と付き合っていたから、失望した時が怖いな」
「まさか」


コンマ数秒のようなきっぱり告げられた声に言葉を失くす。
改めて風間と視線を交わすと、静香の髪から指がゆっくりと離れた。


「常識のみを考えて俺が山吹を失望させるほどのことが?」
「風間さんならしないだろうなぁって思う。 だから気緩む」
「良いことじゃないか」


風間はそう言ってまた少し笑った。



■君は合わせてくれるよね



(ずっと言おうと思っていたんだが、山吹メテオラ合うと思う)
(へ、メテオラ? 私が?)
(お前は場を掻き乱してから旋空で討ち取ることが多い印象を受ける。
 幸い山吹はトリオンが多いし、煙幕や地形変動の撹乱用としてどうかと)
(あ〜、凄いね風間さん。 中距離トリガー全く考えてなかった)

(それに煙幕扱いなら俺とも相性良いだろう)
(風間さん死角縫うの得意だもんね。 今日にでもメテオラ入れてみよ)
(試し打ち付き合うか?)
(よろしく)






メテオラ会話、寺島さんがエンジニア転向してからかなぁと思いつつ、
試作はできていたみたいな雰囲気で。





 
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