短編棚風

□お前は口にしない奴だな
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孤月使いトップクラスだった寺島がエンジニアに転向した記憶はまだ新しい。

今作っているトリガーのコンセプトはどうだ、
試作カメレオンは面白いがトリオンのコストが気にかかる。

昼過ぎに訪れた本部の廊下で風間と雷蔵は偶然すれ違っただけだったが、
お互い足を止めてしまえば立ち話は数十分続いた。

ボーダーに関連する話題を一頻り交換したり押し付けたり等をして別れる。
いずれ開発部に通そうと思っていた用件も伝えた。

これから混成部隊での防衛任務もあるしログも見たい。
・・・あぁ、防衛任務後は個人ランク戦の約束も取り付けられていたな。

この後の予定を思い返すと思ったより予定が詰まっている。
兎にも角にも一度作戦室に戻りたい。

風間が自隊の作戦室へと廊下を歩み始めて数分とせず、背後から声がかかる。


「や、風間さん」


足を止めて振り返れば片腕にぼんち揚の袋を抱えた迅が、
相変わらず飄々とした様子で手をひらりと振った。

今日は随分と呼び止められる気がする。


「迅か・・・どうした?」
「今日はいつまで本部居るの?」
「思ったより遅くなりそうだ。 少し細々したものが重なった」


風間の返答を聞いた迅はばりぼりとぼんち揚を噛み砕きながら、
ふむ、と一言少し考える表情を浮かべた。


「そんな風間さんにお願いがあるんだけど」
「?」
「帰りに警戒区域内の公園寄ってほしい」
「理由を言え、理由を」


若干言い淀む様子の迅に、風間は腕を組んで回答を待つ。

彼に予知があるのはとっくの昔に知っている。
だから今回も予知で視えたものに関連するものだろうという推測もできる。

それはそれとして、だ。


「理由の分からないものにまで付き合うつもりはない」


どうにも風間らしい発言だった。
ですよねー、と言わんばかりに迅は少し笑ってから目を伏せる。


「・・・山吹さんがね、多分居るんだよ」
「・・・!」


まさか警戒区域内の公園って、あそこか。

第一次侵攻が起きるより以前、夜の公園に居た静香を見た記憶が蘇る。

ボーダー基地が完成してからは周辺地域は近界民を寄せる警戒区域とされ、
その夜に彼女と出会った公園も警戒区域の中に含まれてしまった。

静香もボーダー隊員であるし腕も充分立つ、
警戒区域の中に1人で居ること自体はさして問題じゃないだろう。

考え込むような動作に入った風間に、迅は様子を伺って口を開く。


「今日彼女には会った?」
「いや、まだだ」
「最後に会ったのは?」
「・・・一昨日か」

「その時は普段通りだった?」
「普段通り、だったように思うが」
「うーん・・・」


いくつかの羅列する質問に順番に答え、返答を聞いて悩む様子の迅。

あの日は父からの暴力から逃げてきていたと後日彼女の口から聞いた。
しかしその父親は侵攻で亡くなっているし、今の静香は1人暮らしだ。

以前のような理由ではないと思う・・・が、
前回その公園で出会った理由は上記だった。

事情を知っているなら、放っておけやしない。


「さっき山吹さんに会ったんだけどね、不安定そうだった」


ぽつりと呟くような迅の声に顔を上げる。


「そしたら夜の公園に1人で居る山吹さんが視えたから不安なんだ。
 多分おれが聞いても答えないだろうし、もしかしたら風間さんなら」
「理由は分かった。 帰りに見に行く」


きっぱりとそう告げた風間に、迅は安堵したように息を吐く。


「ありがと風間さん」
「いや、助かる。 アレはわざわざ自己申告するタイプじゃないからな」
「山吹さんをアレ扱い・・・あ、でも」
「?」

「視えた時点ではまだ不確定で、『可能性が高い』止まりだから」
「公園に居ない可能性もあるんだろう。 それはそれで個人的に連絡入れる」
「・・・やけに周到だなぁ、助かるよ」



■お前は口にしない奴だな



(・・・なんだその目は)
(いやぁ? 別に何も?)
(・・・)
(珍しいなぁと思ってただけで他意はないよ、本当に)





 
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