短編棚風

□君は素直に惜しんでいた
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高校在学中にボーダーでB級に昇格してからは、
勧誘を受けて火谷を隊長としてチームを組んでいた。

孤月とメテオラを使い撹乱と被弾を主とした相手を崩す静香、
素早さを活かした不意打ちと死角から相手を刈り取る風間の2大エースだ。

結成から1年も経つ頃には火谷隊はA級にまで上り詰め、上位を争っていた。

来たるランク戦に向けて作戦立案の会議を行うために集まった火谷隊作戦室。
A級在籍の火谷隊の作戦室は充分な広さがあった。

テーブルを囲んで座る静香と風間、ホワイトボードの前に立つ火谷。
さて、じゃぁ相談するか。 隊長の火谷はその空気に一度ストップを掛けた。


「その前に少し話しておきたいことがあるんだけど」
「?」
「大事な話?」


こくりと頷く火谷は、静香と風間より学年は1つ上だった。

オペレーターである梅林を含んで、部隊平均年齢18〜19歳の火谷隊は、
全員の性格も相まってか、他部隊と比べ随分と落ち着いた雰囲気を見せる。


「梅林にはもう伝えてあるんだけどさ。
 冬頃にはチーム解散させようと思うんだよね」
「急だな」


隊長火谷の発言に風間は少し驚いたような様子を見せた。
季節は夏、解散予定の冬までにはまだ時間はあるが、解散の話題は初出だ。


「というのもちゃんと理由もあって、俺ら防衛隊員だと年長者な方じゃん」
「あ〜」
「あぁ・・・」


火谷の発言に察しのいい2人は『年長者』という単語で大部分を理解する。
隊長は話が早いなぁと笑いながら言葉を続けた。


「1チームに固まってるの、良くないんじゃねぇかって思ってたんだよね」


火谷隊長がそれぞれ静香と風間を別々に勧誘し、
お互いに同じ人から勧誘を受けてるじゃんと笑って、承諾し結成1年半。

幾度かのランク戦を経て火谷隊はいつのまにか、
戦術、作戦立案、指揮、それらの勉強や特訓を主とした部隊になっていた。

反省会は勿論、良い判断だったところも挙げたし、
ランク戦ごとに作戦立案者と指揮担当を変えた。

全員が綿密な作戦を立てる火谷隊は判断力、決断力に非常に優れていた。


「指揮能力はここで随分鍛えられたな。 俺は解散に異論はない」
「私も異論ないな。 シンプルな戦力よりも隊長格の方が必要だろうし」
「オーケー、2人ともご理解ありがとう」


隊員の快い了承に、火谷は安堵したように目を細めて笑った。

あっさりと決まったチームの解散。
火谷隊結成から2年近くが経とうとしていた。

反芻しているのか一瞬だけ訪れる作戦室の静寂に、風間はふと笑みを零す。


「風間さん?」
「いや、」


あまりにも短すぎる2文字の否定。
それがなんの否定かも分からなかった。

シンプルに笑っているというよりは少々複雑そうな笑みに、
火谷と静香は彼の顔を覗き込むようにして様子を伺う。

背丈か、童顔めな顔か。 作戦室で1番幼く見える風間は、
覗き込む2人にそれぞれ瞬きをしてから眉を下げた。


「解散自体に不満はないが・・・相方と部隊別れるのは惜しいな」


少しだけ笑ったように口元に弧を描く風間の赤い瞳が静香へと向けられる。

隊長である火谷はシューターだったため、
風間が連携を頻繁に求め、また求められたのは静香の方だった。

高校時代からの友人、生憎ながら1度も同じクラスになることはなかったが、
雰囲気が似ていたから何かあれば共に居ることが多かった。

・・・何もなくても立ち話なり外出なりはした。

連携も随分と練習したし、ランク戦で2人が合流した際には
『こいつら本気だぞ』と相手部隊を度々怯えさせたものだ。

彼の意図を汲み取ったか静香は柔く微笑む。


「楽しかったよ、風間さん」
「俺もだ」

「もう終わりみたいな雰囲気だけどまだ数ヵ月あるからね?
 まだまだ勝つぞ? 最後まで働いてもらうからな?」
「任せて」
「任せろ」
「うちの前衛かっこいいなぁ」



■君は素直に惜しんでいた



(せっかくだから最後にA級1位の座奪っとこっか。
 1位の座かっさらってから解散するのめちゃくちゃかっこいいよ、多分)
(・・・山吹、言ったな? 二言はないぞ)
(ふふ、)
(えっ2人ともマジで言ってる? 2人とも強いけどマジで言ってる?)

(風間さんはもうスイッチ入ってるよ。 考えてる顔してる)
(・・・・)
(お、おおおオーケー!? A級1位奪うかァ!?)
(火谷さんが1番錯乱してるんだけど。 隊長落ち着いて)





 
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