短編棚風

□彼は溜息吐きながら笑う
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「そういや火谷隊解散するんだって?」


同い年の面々で大学の食堂一角を占領してあれこれ談義していた頃、
不意に思い出したように諏訪が別の話題を持ちかけてきた。

少し前に作戦室で持ち上がり確定された話題は、
どこからか外にも広がり巡り巡って同い年にまで回ったらしい。

4人のうち半分が火谷隊を占める4人席テーブル。
当事者であり火谷隊に属する静香と風間はそれぞれ浅く頷いた。


「火谷さんは解散後どうされると?」
「エンジニア就職の方向で今いろいろ相談してるって聞いた」
「うえーっ火谷さん戦闘員やめんのかよ!?」


木崎の質問に本人から聞いた情報を返事する静香に、
諏訪は大層驚いたような反応を見せた。

A級上位の1枠を埋める部隊の長が戦闘員を引退予定。

火谷隊の点取り屋は基本的に静香と風間の2枚看板だったが、
火谷は射手としてそれなりに腕が立ったゆえ各所で惜しむ声が挙がった。

この場には居ない同い年もトップランカーを争うほどに強かったのに、
エンジニアに転向した際は反対の声すらあったほど、
それはそれは強く惜しまれたものだった。


「逆に考えろ、元部下の好で片っ端から意見言えるぞ」
「その役割で言やぁ俺らには雷蔵が居るだろ既にいろいろ言ってるわ!!」


続いてオペレーターの梅林はどうするのかという問いに、
引退のつもりだったけど新人育成で中央から声掛かってるらしいと答える。

流石だよなぁと呟く諏訪に、風間は敏腕だったと彼女の腕を褒めた。


「2人はまだ現役だよな、新部隊設立?」
「俺はそのつもりだ」
「んー、迷い中。 でも作ると思う」


新部隊設立に向けて方針や方向性は定まっているのかという木崎の問いに、
風間は頷いたが静香は首を横に振った。

方向性は全然だが、その代わりにできるだけ、
高校生以下を呼ぼうとしている考えがあるとだけ伝える。

ボーダーに数年携わり勝手を知り戦い慣れた隊員が集まれば強いのは必然だ。


「活きのいい年下捕まえたいな」
「チームの発言じゃなきゃ完全にアウトだろ今の」


呆れたようにツッコミを入れる諏訪に幾度かの瞬きを送る。
ふっと口元を緩めた静香は悪戯っ子のような笑みを見せた。


「やだ諏訪さん歪曲解釈」
「諏訪」
「なんで俺が怒られんだよ!!」


名を呼ぶだけであるが咎める口調の風間に諏訪が大きく吠えた。
尚分かってて発言した静香はくすくすと笑いを堪えている。


「けど実際どうやって隊員呼ぼうかな。
 人脈は狭い方だし来てくれそうな人も思い当たらないや」
「その辺風間はどうすんの?」
「俺は部隊像が定まっているから、まずはそれが可能なオペレーターを探す」
「オペレーターからかぁ」


確かにオペレーターの能力が高くて損することはまずない。
それは今の火谷隊で、梅林の能力を痛感していたゆえの納得だった。


「でも風間は隊のイメージがあるからこそ、オペからなんだろ?」
「それがないってこたぁ組みたい奴から探すんでもいーんじゃねーか?
 気になる隊員とか居ねーのかよ? 組んでみたい奴とか」
「気になる隊員かぁ・・・」


木崎と諏訪からの助言に記憶にある隊員を巡らせる静香。
数秒考える表情をした彼女は不意に眉を寄せた。


「・・・山吹、お前A級と大学生以外で会話してる奴居るか?」
「・・・・分かってて訊いてるなら相当意地悪だよ、風間さん」

「それにしても風間隊に山吹隊か・・・響きだけで嫌だな・・・」
「失礼な」
「褒めてんだよ」







組んでみたい人、気になる隊員、ねぇ。

同い年で集まった際に受け取った助言を脳裏の端に置いたまま、
静香は個人ランク戦の場に立ち入った。

ボーダー設立当初は人数も少なく大半の人を把握していたが、
把握しきれないほどの人が増えると、今度は必要最低限以外の人脈が消えた。

火谷隊は比較的ストレートに上位入りを果たし、
A級歴も長いゆえに今のB級部隊とあまり面識がなかった。

ランク戦ログはチェックしているので隊と名前と顔は一致している程度だ。

ただ既に部隊に所属している人を引き抜くという話でもないので、
隊を組んでいない友人知人となると更に幅が狭くなる。

あのテーブルの会合から数日経っても誰1人の顔も思い浮かばないくらいに。


「山吹」


通路側の壁に寄り掛かってランク戦映像を眺めていた静香に、
通路から顔を出したばかりの男声が少しばかり驚いた声をあげた。

顔を向ければ自分よりも背の高い身長に鋭い金色の目。
猫背気味の彼と目が合うのは容易で彼女は2度瞬きを繰り返した。

・・・隊を組んでなくて、高校生以下で、比較的よく話す人。


「影浦君が居たなぁ・・・」
「あ?」
「ごめんね、こっちの話」


思わず零れ出た静香の独り言に影浦は怪訝そうに眉を寄せたが、
一言謝ると言及する気はなくなったようで、影浦も壁に寄り掛かった。


「ランク戦かよ?」
「しにきた、っていうよりは見に来た、かな」
「へぇ・・・つーか火谷隊解散すんの?」
「よく知ってるね」


火谷隊解散の話は別に隠してはいないが振り撒いているわけでもない。

部隊ランク戦に参加していない影浦は興味がなさそうにしていたもので、
まさか彼から解散話について言及されるとは思っていなかった。

ゾエが言ってた、と悪友の名を口にする影浦に成程、と相槌を打つ。


「じゃぁ山吹どうすんだよ」
「自分のチーム作る方向で考えているよ」
「へぇ」

「・・・影浦君、私の隊来ない?」
「ぜってぇ嫌なんだが」


コンマ数秒、その場で思いついた勧誘とは言え、
1秒とせずに拒否を喰らい思わず苦笑いを浮かべた。


「迷う時間くらい欲しいなぁ・・・完全拒否じゃん」
「おめーの隊入ったらランク戦マッチングできねーだろ」


即刻拒否ではあったが、理由のありそうな物言いに口を噤む。

感情受信体質のある彼はそれを感じ取ったのか、
一瞬だけ視線を静香にやるとすぐ逸らしてブースの方へ目を向けた。


「俺ぁ山吹の仲間よりも敵のがいい」
「・・・」
「じゃなきゃわざわざ個人戦呼ばねーだろ」
「・・・へぇ」


確かに影浦からは時折個人ランク戦の呼び出しは受けるが、
そのほとんどが影浦の勝ち越しで終わっている。

練習相手には物足りないはずなのに呼ばれる理由が気になっていたが、
今の発言から少しだけ読めそうな気がした。

含みのある相槌が気に掛かったのか眉を寄せた影浦からの視線が刺さる。


「・・・なんだ、おめー・・・なんだその刺し方・・・」
「なんだろ? ちょっと意外に思ってるかもしれない」
「なんでだよ」

「即拒否るわりには嫌われてるわけではなさそうだなと思って」
「俺が嫌いな奴捕まえて世間話吹っ掛けるタチかよ」
「それもそうか、そうだね」

「一応言っとっけど山吹のこたぁわりと信用してる方だぜ」
「・・・・」
「あー、成程こいつが意外か」



■彼は溜息吐きながら笑う



(ただいま戻りました、っと)
(山吹。 面白そうな奴は見つかったか?)
(あは、影浦君に声掛けてバッサリフラれたところですね)
(影浦? ・・・意外だな、アレはアレでお前には懐いてるように見えたが)

(同じ部隊になったら対戦できないだろって言われたよ)
(あぁ、そういう理由なら納得する)
(風間さん納得するんだ・・・妙な好かれ方したな)
(あれは面白くもない相手をそう何度も呼び出す奴じゃないだろう)





 
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