OP 短編―U―

□the wan moon
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何も覚えていないけれど悪い夢でも見たんだろうか。

目が回るような忙しい一日を終え、泥のように眠りに付いた筈なのに、こうして目が覚めてしまった。

耳を澄まさなくても聞こえてくるクルーの寝息やイビキにまだまだ夜が深いはずと、時計を確認すればやはり深夜と呼べる時間を少し廻ったところだった。




もう一度寝よう、そう決めて目蓋を閉じたが、一向に眠気はやって来ない。

ならばと羊を数えてはみたものの。

32匹目あたりの羊から次々と船長の胃袋に消えてしまうというアクシデントにあう。

おいおい、俺の妄想の中に出てきてまで腹を満たそうとするんじゃねぇよ。

半ば八つ当たりのような突っ込みをしたところで、羊を数えるのをやめた。

脅えきった羊が小屋から出てきてくれなくなってしまったから。






いくらなんでも朝食の仕度を始めるには早すぎる時間。

いつも以上に重い疲れきった身体はまだ休養を欲している。

何か温かいものでも飲んで身体の芯が温かくなれば眠くなるだろうか。




そろりと部屋を後にすると、思いの他ひんやりとした潮風に身を縮ませた。

甲板に伸びた長く濃い影に、空を見上げると丸い月が浮かんでいた。

「満月だったのか」

舌打ちの後に洩れたのは白い息と深い溜息。






青白い光を放つそれが俺はどうやら好きではないらしい。

それに気付いたのはいつのことだったかもう忘れてしまった。

突発性の難聴のように聞こえるはずの波の音が消えて無音になるんだ。

そんな中、俺のいやにゆっくりな鼓動が聞こえてくる。

ただただひたすらに、胸が、苦しくなる。

ギリギリと締め付けられる。






ブルリと無意識に震えた身体。

どうやら随分と空を見上げていたらしい。

指先も足も、完全に身体の芯まで冷え切っている。

腕を擦りながらもう一度月を睨みつけた後、俺はラウンジへと避難した。

本当なら中指でも突き立ててぇ気分。




あぁちくしょう。最悪だ。


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