OP 短編―U―

□the wan moon
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青白い光を放つ満月は好きじゃない。

空には無数の星があるはずなのに強すぎる光はそれを全てなかったことにしてしまう。

丸い月は孤独だ。

けど、俺は孤独なんかじゃない。




俺はいつだって忙しい。

クルーにとびきり美味いメシを作らなきゃならないし、ミカンの世話だってしなきゃならない。

盗み食いを働こうとする船長を追わなきゃならないし、買出しだってしなきゃならない。

夢に見るオールブルーを探さなきゃならないし、仲間の夢の手伝いだってしなきゃならない。

「俺はいつだってクソ忙しいんだよ。」

零れた言葉は紛れもない本心で、現実で。

それなのに目の前の彼女は今にも泣き出しそうな顔で俺を見ていた。






ギリギリと胸の奥が痛む。

これはきっと満月の所為。

青白く輝く月の所為。






忙しい日常に追われて、あっという間に夜になって。

明日はもう満月じゃない。

少し欠けた月。

こうやって眠れない夜はまた次の満月までやってこない。

俺は孤独なんかじゃない。




いつの間にか視線が下へと落ちていた。

それを知ったのは彼女の冷えた手が頬に触れた瞬間のこと。

我に返って顔を上げれば、彼女の瞳から溢れた青白い雫が頬を伝っていた。

「ごめんね」

何度も、何度も、繰り返して彼女は言う。

月と同じ色をした雫を流しながら。




三度目の後悔。

謝らなきゃならないのは俺のほう。

「ごめんな」

こんな弱いところを見せてごめん。

抱きしめてやれなくて、ごめんな。

大事なことを言ってやれなくて、ごめんな。


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