短編

□お題小説
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お題 鏡・グラス・私

 恨みはない……憎しみもない……ただ、可哀想だと思った。残されたこの子達が可哀想だと思った。
 私には、頼るべき夫はいない、温い雨が降りしきる六月、夫は一枚の緑の紙を残して消えた。

 その紙には、“離婚届け”と記されていた。

 簡単な署名と判子だけで、私達の短い結婚生活は、終わりを告げた。
 私は、精一杯やった。
 子供達のため夜となく、昼となく働いた。でも、限界だった……死んでしまおう、全てを捨てて楽になろう。
 でも、この子達は? 鏡写しのような、幼い双子の美樹と真樹、私の子供達は私が死んだらどうなるのだろう。

 ならばこの子達も一緒に……

 そして私達は、思い出の地へ向かっていた。夫と出会い、過去、子供達とも行った事のある海岸に。
 子供達は海岸に着くと、無邪気にはしゃいでいた。そんな子供達の様子を、私は、見るともなしに、見ていた。
 やがて、嬉しそうに二人は私の元へ来ると、声を合わせて言った。
「お母さん、いつもおつかれさま、はい、これプレゼント!」
 二人で握られた手を開くと、そこには黄色のシーグラスがあった。
「私達の宝物だけど、お母さんにあげるね!」
 全幅の信頼を向けた、一点の曇りもない、笑顔だ。気が付くと私は泣いていた。
 「どうしたの、お母さん? なんで泣いてるの?」 二人が心配そうに言うが、私の涙は止まらなかった。私は、自ら宝物を壊そうとしていたなんて!
 もう、死のうとなんて考えない! この子達は何があっても守る。
 私はシーグラスを強く握り締めた。
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