短編

□お題小説
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お題 羽・船・屋根

 「だからぁ!羽はもっと大きくしなくちゃ!」
 何処までも澄んだ、八月の高い空の下、小学校の校庭に子供の声が響き渡る。
「でも、羽は小さい方がかっこ良いよ?」
 先程、怒られていた少年が頬を膨らませ、反論する。その手にはペーパークラフトの飛行機が握られている。
「そういう事は、ちゃんと飛ぶ奴を作ってから言えよな渉」
 ヤレヤレと言うように少年は肩をすくめた。渉と呼ばれた少年はまだ納得していない様で相変わらずの膨れっ面だ。
「じゃあ、飛ばしてみな?せいぜいあそこの屋根位までしか、飛ばないから」
 そう言うと、少年は二、三十メートル位向こうに見える、家の屋根を指差した。
「あの位なら、余裕で飛んでくよ!」
 渉は飛行機の胴体部を持ち、ぎゅっと力を込め投げる……飛行機は空に吸い込まれるように飛んで行く

 と、ゆう事はなく……きりもみ回転してあっさり落ちて行った。

 その距離は十メートル位だろうか。
「なっ?言った通りだろ」
少年が、それみた事かと言う。
「悠介君みたいには、飛ばないかぁ」
渉はちょっと悔しそうに、言う。

 渉は夏休みに入ってから、ペーパークラフトの飛行機を作り続けている。悠介が校庭で飛ばしていた飛行機に魅せられたからだ。
 悠介の飛行機はまるで、放たれた矢のように、何処までも、何処までも飛んで行く。
「ふぁぁ、相変わらず、不器用だなお前」
 悠介が呆れるように、欠伸しながら言う。羽を直しては飛ばし、落下しては直して飛ばす。そんな作業をずっと見ていたために飽きて、こっくりこっくりと、舟を漕いでいる。
「俺さ……この島出て行かなくちゃダメなんだ」
 悠介がぽつりと言う。
「親の都合て奴なんだけどさ……だから、さっさと飛ぶ奴作れよな渉!」
 悠介は無理矢理明るく言う。

「結局、渉の飛行機は飛ばなかったな……」
 いよいよ悠介が、島から出て行く日、港には見送りの人々で賑わっていた。
 悠介は船の甲板で出航を待ちながら、渉の姿を探していた。しかし、渉の姿は何処にもなく、無常にも出航の汽笛は鳴る。
「あいつ、見送りもしてくれないのかよ!」
 悠介は独り呟くと、学校の方を見る。不器用な友人と過ごした日々はまるで、幻のようで悲しかった。
「何、やってんだよ!渉……」
 その時、学校の屋上から何か飛んで来た。最初は鳥かと思い悠介は大して気にしなかったが、“それは”真っすぐに悠介の元に向かっていた。
「あれは……飛行機?」
コトンッ
 船の壁に当たりペーパークラフトの飛行機が降り立つ。
 その飛行機の羽には何か書いてあるようだ。
『どうだ!もう、屋根なんて余裕だよ!』
 屋上からは、渉がブンブンと手を振っていた。
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