短編

□聖夜の客は招かれざる者
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 成宮 和樹は、困惑していた。混乱と言ってもいいだろう。
 それは、常日頃から無表情と言われる彼にしては、珍しい程の驚き様だった。
 彼の眼下には赤い三角帽に、揃いの赤い上下という、見事なサンタルックに身を包む者がいる。
 折しも今日は十二月二十五日、クリスマスである。
 街中ならそんな格好をしている者もいるだろう。パーティーで仮装をする者だっているかもしれないし、家族サービスのため、メタボな腹を今こそ生かさんと、息巻くお父様方もいることだろう。
 しかし、目の前にいるサンタの扮装をしている者は、どう見たっておかしかった。
(サンタの格好をしてるのはまあいい。クリスマスだし。女だっていうのも特に問題はない。衣装がミニスカートなのもまあ、良い。と言うか、むしろ歓迎する。だけど、何故コイツは窓枠にぶら下がっている。百歩譲って酔っ払いの愚行だとしても、おかしいだろこれは)
 和樹は、どうにかして部屋へと侵入しようとしている女を見下ろし、考えていた。
 何故なら、彼の部屋は二階である。そして、和樹は今まで一階の居間で食事を取っていた。玄関から人が入った気配はない。
 ならば彼女はどうして窓枠にしがみついている? 混乱するばかりで、和樹の思考は霧散するばかりだった。
「助けてくださ〜い」
 どうするべきかと和樹が思案していると、妙に間延びした救援要請が耳を打つ。
「お願いします〜助けてくださ〜い」
 もう一度。
(どうしよう。助けた途端、豹変して襲いかかられたりしたら)
 和樹の頭の中には『クリスマスの悲劇! 十五歳少年刺殺!』という、ショッキングな新聞の見出しが浮かんでいた。
(きっとニュースとかでも好き勝手言われるんだろうなあ。レポーターに向かって俺の友人は『恨みなんてとんでもない、いい奴でした。ううう……』なんて言われたり)
「お願いします〜手を貸してください〜そうしないと〜ここから落ちて死んで化けて出ますよ〜」
 妙な三段活用でサンタルックの女が言う。
 和樹は彼女をジッと見る。思っていたより若い。和樹と大して変わらない歳なのかも知れない。
 落下の恐怖に揺らぐ瞳は、草食動物のように優しげで頼りない。
 『犯罪行為を行うようなタイプには見えない』和樹は、そう判断した。
「助けて欲しいのか、脅してるのかハッキリしろよなたくっ」
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