短編

□なくしたことば
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 はてさて、紳士淑女の皆様お立ち合い!
 これは世にも奇妙で、そのじつ何もない当たり前の話!
 神と人間の少し奇妙な話。
 え? お前は誰かって? オイラはラック、黒猫のラック、訳あって使い魔をしてる。
 ほんのちょっと前までは、聖獣だったのに……無茶をしたご主人様のせいで、飼われていたオイラはめでたく使い魔に転落!
 勘弁してほしいもんだねホントに!
 ご主人様は何をしたって?
 それはもう、無茶苦茶と言うか、お子様というか。
 話しは数日前になる。

「ルーン、お前は自分が何をしたのか分かるか?」
 立派な髭をたくわえた主神が、厳かに言う。
 言われた当の本人はむっつりとした面持ちで、あまり反省の色は見られない。
 ルーンと呼ばれた少年――オイラのご主人様は神様見習いだ。
 神様と言ったって見た目はそこいらの人間と変わらない。ちょっとばかり色んな力が強いだけだ。
 ご主人はどう見たって、そこいらの悪ガキ共と同じにしか見えないし、目の前の主神だって威厳はあるけどただのじいさんだ。
 ご主人はある罪を犯した、世界から『好き』という物をなくした。
 人々から何が好きという物はなくなり、好きな物をめぐり、争う事はなくなり戦争、紛争は消えた。
 そしてそれは、同時に人々から、希望ある未来さえも奪った。
 好きな事は消え、頑張りたいと思う事すらなくなってしまったからだ。
 それをやった、ご主人は深く考えた訳ではなく、ちょっとした親切心からの行動だった。
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