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ゴスロリ少女とウェンディ



一、
 アタシが十五歳の誕生日を迎える間に母は、四度の離婚。六人もの男と関係をもっていた。十八歳でアタシを産んだ母は、今年で三十三歳になる。
 そんな母に疑問を抱いたのは、小学校二年生の時だったと思う。

 『今日は、家族についての作文を書いてもらいます』何気ない教師の一言に、アタシは困り果てていた。
 家族のことと言われ、母のことを書こうと思った。けれど、思い出される母の姿はいつも濃厚な酒気を漂わせた、しどけない姿で、母と何かをした記憶すらなかった。そんなことは書きたくなかった。
 次に、父のことを思いだそうとした。夢の記憶をたどるような、ひどく曖昧な作業。顔のない、見知らぬ誰かの姿が脳裏に浮かぶ。
 見知らぬ誰かは、母と言い争いをしていた。アタシはそれを、ロッキングチェアに座って見ている。背もたれよりもまだ小さいアタシは、不安定に揺れるチェアよりも、母の胸に抱かれる方が安心できた。
 やがて母は泣き出し、台所から刃物を持ち出しアタシを抱き上げた。母はひどく興奮しているような気がしたけれど、アタシは母の胸に抱かれた安心感で眠ってしまう。
 その先は分からない。これが父と母とアタシが一緒に過ごした、最後の記憶だった。作文にするには、漠然とし過ぎていると思った。
 次に、義父のことを考えた。
 ある日、一度目の離婚をした母から『今日から彼がお父さんよ』と、男性を紹介された。
 目の前にいる彼がお父さんなら、お父さんは何と呼べばよいのか、何よりも彼がどうしてお父さんなのか、幼かったアタシには何一つ理解出来なかった。
 当然、その男のことも書くことはできない。彼はアタシにとって他人であり、家の中にいる気の良いオジサンでしかなかったのだから。
 周りの子たちが原稿用紙を順調に埋めていく中、アタシの原稿用紙は白紙のままだった。
 やがて終業を告げるチャイムが鳴り響く。次々と担任のもとに集められる原稿用紙。アタシは杉下 多穂(すぎした かずほ)と名前だけを書き提出した。
 その日、書くべき家族がいないことを知った。
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