長編

□玉響の恋
2ページ/186ページ

 夕方というには遅く、夜というにはまだ早い半端な時間、刺すように降り注ぐ狂暴な太陽は、辺りを優しいセピアに包む夕日へと変わっている 。

 昼と夜とが重なる真っ赤な夕日――あと、一時間も待たずに日は沈み、濃い闇が辺りを包み込むことだろう。




ココハ、ドコナンダロウ?




 整然と並んだ備え付けの椅子に、薬局と書かれた小さな受け付け口、ツンと鼻につく消毒液の匂い、パタパタと忙しく動く白衣の人々。




ココハ、ビョウイン……?




 人もまばらな夕焼けの待合い室は、無機質な病院の清潔さも手伝い、どこか刺々しい空気をはらみ、ただそこに居るだけでも無用の緊張を強いる。

 一般の往診は終わり、今この時間、この場所に居る者達は緊急の患者か、その付き添いの者達なのだろう。椅子に座る数少ない人々は一様に不安そうな、疲れたような顔をしている。

 そんな者達の中、一際目立つ少年がいた。

 少年は椅子に浅く腰を掛け、だらしなく四肢を投げ出していた。

 それはまるで、糸の切れた操り人形のようだった。

 そして昏い眼で何やらぶつぶつと呟いている。

「僕が、僕……せいで……」

 その口から紡がれるのは恨み言だろうか。

 壊れたテープレコーダーのように何度も何度も同じ呪咀が吐かれる。

「うっ、くっ、で……だよ!」

 少年は泣いていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ