5周年記念企画

□幻月-Mock Moon- 二色 恋 様 師クラもどきキルクラ
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奇跡なんて言葉は信じちゃいない。
運命なんて尚更だ。
けれど、奴と俺の出会いは、正に奇跡で、今やそれは運命だったんじゃないかとすら思える。
奴が居るから俺が在る。

言うなれば、
奴が月なら俺は幻月。



厄介事や、真剣に取り組まなければならない事、集中し神経を使わなければならない状況に限って、更に難問がやって来る。
そんな経験はよくある話で、だからと言って、それらを捌けなかった事も、ましてや二兎追う者は…なんてヘマをやらかした事もない。
しかし、今回ばかりは流石に困った…。

自分の心の置き場に…。



電話口で黙りこんだ私に向かって、諦めた様な口振りで彼は言った。

『なあ、クラピカ、聞いてる?』

「あ、ああ…。」

『逢えないから怒ってんじゃないんだぜ?
いや、逢えなくてスゲー悲しいのはホントなんだけどさ。
アンタの声が変だから…、』

相変わらず聡いキルアは、寧ろ労う様な声色でそう言った。

お互い超多忙な時間をやりくりし、やっとの事でスケジュールを合わせたのに、ドタキャンをかますのはいつも自分で、今回もそうだった。
言われなくても自分も十分辛いのだけれど、緋の目が奪還できるとあれば、どうしてもそれを優先させてしまう。
それを分かっているからこそ、キルアは私を責めない。
だから尚更、私を気遣って苛立ちも押し殺してくれている彼に逢いたい気持ちは募り、それこそ緋の目は後回しに…とすら思いそうになる自分を押し留め…、

「ゴメン…、キルア。」

何を言っても言い訳がましいし、彼には申し訳ない、自分がどんなに寂しくても言える事は結局これしかないのだ。

『…あのさあ、謝って欲しいなんて言ってないって。』

「分かってる。
でも、本当に申し訳ない。」

『ったく…。
てかさ、残りの瞳が少なくなってくにつれ、入手難度スゲー上がってんじゃん?
その度毎にアンタ、凄く消耗してんの分かってる?
俺はそれが心配なんだって。』

「大丈夫だ。
食べられる時は食べてる。」

『やっぱそんなんじゃん!
鏡見てる?
見てなくても、ゲッソゲソになってんの、手に取る様に分かるって。
だから…』

想いが溢れ、鼻孔が痛くなる。

「私だって、逢いたいと思ってる…。
でも、お前だって世界中を飛び回って、体は大丈夫なのか?」

『うん、それこそ大丈夫。
俺にはゴンが居るからさ。
でもアンタは独りじゃん、だから心配してんだよ。

あ〜でも、俺の方が絶対勝ってるけど、アンタが逢いたいって思ってくれてんの、マジで嬉しい。
そんで、俺が分かってるって言えんのスッゲー嬉しい…。』

胸の奥が暖かくなって、思わず笑みが零れる。

「…本当に、逢いたいって思ってる。」

そう、やっぱり触れたい、振れられたい。

『不毛だよな〜、こんな会話。
俺は、やっぱアンタに逢いたいし、触りたいし、キスしたいし、抱き合いたい。』

「キルア…。」

想いを言葉でくれる彼が愛しい。

『で、ドタキャンして、アンタは何処に行くの?』

私は次のターゲットを思い起こして、携帯を握り締めた。



壮絶な銃撃戦の後に不吉な沈黙が訪れる。
キツい硝煙に涙を浮かべながら、仲間の安否を確認する。
決めてあったサインも無い、まさか味方は自分以外全滅したのか?
そろそろと壁際に身を寄せて、そっと背後を確認する。
敵の姿は見えない。

私は目指す隠し部屋へ、警戒を怠らず移動し始めた。
敵か味方か判別も出来ない屍の脇を縫いながら、北の倉庫に辿り着く。
小麦袋をよけると、地下へ繋がる引上戸が現れた。
梯子を降りきった狭いスペースは、世界中の秘宝で埋め尽くされていた。
そしてその直中(ただなか)に、美しい装飾の施された硝子ケースの中で、まるでそこだけボンヤリ発光しながら、緋の目がフワフワと浮いていた。
制御仕切れない怒りと悲しみが身体中に溢れ、一気に視界が緋く染まった。

シュッッ

その瞬間、放たれた一瞬の殺気を感じ取り、クラピカの鎖が瞬時に敵を捉えた。

「っ貴様は…、」

驚愕し見開かれた目の前で、鎖で絡め捕られたまま転がる男は、クラピカを見上げると一瞬驚いた表情を見せ、ニヤリと笑った。

「なんだお前さんか。
絶対時間か、成る程叶わない訳だ。」

その瞬間、味方の呼び声と複数の足音が聞こえた。
クラピカは捕獲した緋の目と男を連れて、味方に気付かれない様、敵のアジトから消え去った。



「おいお前、仮にも俺はお前の師匠だぞ?
いい加減、この鎖を外せってんだよ。」

苛立たしげにそう言うと、師匠と言った男は床に転がった体を捻って鎖をジャラジャラ言わせた。

「ふざけるな。
その弟子に、思いっきり殺すつもりで攻撃してきたのは何処の何奴だ。
しかも、心源流拳法の師範代が聞いて呆れる、私のカウンターにあっさり捕まるなんて。」

クラピカは自室のソファで足を組み、冷ややかな視線を自らの師匠に投げ掛けていた。

「まさかお前がこんなマフィアの大掛かりな抗争に加わっているなんて思ってもみなかったんだよ!
しかも絶対時間は反則だろうが。」

クラピカは鎖を緩めるどころか寧ろ束縛する力を強めた。

「鎖を解く前に聞いておきたい事がある。
貴様の目的は何だ?
何故あそこに居た?
返答次第では、鎖共々二度と陽の目の拝めぬ海底に沈んで貰う事になる。」

「ったく。
ハンター協会からのミッションを俺が言うかよ。
まあ、とは言え、久し振りの弟子との再会がこれじゃあ様にならねーから、お前さんを信用して教えてやるよ。

お前等の抗争相手のファミリーに、最近ハンターキラーが雇われたらしくてな。
既にハンターが数人殺られてる。
挙げ句の果てに、殺った人間の写真とライセンスカードをいちいち協会に送りつけて来やがってな。
流石の協会も手をこまねいて見ている訳にも行かず、俺が潜入捜査に駆り出されたって訳だ。
まさかお前絡みじゃないだろうな?」

「私にはそんな事をするメリットが無い事は貴様が一番知っているだろう。
そんな話は初耳だ。
それで、目星は付いたのか?」

「いや全く。
そもそも俺があそこに雇われたのは三日前だからな。」

クラピカはじっと師匠の顔を見ていたが、やれやれという風に首を振って、鎖の戒めから師匠を解放した。





「はあ〜、身体中が痛いわ。」

俺は首の間接をコキコキと鳴らすしながらやっと座り易そうなソファに腰を下し、クラピカの淹れた珈琲に口を付けた。

「?
俺もお前もブラックだろうが、なんでミルクと砂糖なんか出してる。」

「あ、ああ、ついいつもの癖で…、」

「なんだ、マフィアの幹部が御自ら客に茶なんか振る舞うのか?
落ちぶれファミリーは大変だな。」

そう笑いながら、俺は食い入る様にクラピカの表情を見詰めていただろう。
クラピカは心なしか頬を染めて、俺の方を見ない。
俺の心の底に、インキの様なシミがポツリと広がった。

「てな訳だからお前手ぇ出すなよ。
ミッションばらしてんだ、お前が関わって来たら、次は本気で殺り合わなきゃなんねえ。」

「無論だ。
明日以降もしウチの組があのマフィアに行く事になっても、私は出ない。
元より私の狙いは緋の目だからな。
…それにしても、どういう風の吹き回しだ?
貴様が山から下りてくるなど考えられんのだが。」

当然すぎる質問だった。
きっと彼なりに俺の様子を伺って、やっとここで質問する事にしたんだろう。

「まあ、色々だ。
会長からの依頼とあれば、流石に動かなきゃ何ねー時もあんのよ。」

お前の念の修行を付ける為のホンの僅かな間、俺達は山奥で二人っきりで過ごした。
お前が居なくなった後何年経ったって、弟子も取らずお前の幻影ばかり見てお前とのやり取りばかりを思い出し、そんなノスタルジックな考えに支配されるのも、あの山奥での隠遁生活の弊害なのかもしれないとやっと自覚して、下界に下りれば気も晴れるかもと思ったのも確かだ。
散々おれに説得し続けたウィングから、クラピカが身を置いたと思われるマフィアの居る国のミッションだと聞いて、重い腰を上げた風を装いミッションを受け、久し振りの下界に来ればいきなりこの出会いだ。
運命感じたって可笑しくないだろう。

勿論、そんな事をこいつに明かす気は無い。
あの時のお前は、何かに縋らなければこれ程の強さを身につけられなかっただろうし、精神的に持たなかっただろう。
だから俺も何も聞かずお前を受け入れ、お前の支えになった。
けれど、結局お前が山を下りた後、寧ろお前に依存していた自分に気付いた。
何人かいる弟子の中で、こんなに執着した奴なんて居無い。
あの時の俺とお前の結びつきを、お前は今も覚えているのか、俺と同じ様に今も俺を思っているのか、女々しい事に俺はそれを知りたかった。
それが分れば俺は独りでだって、またあの山奥ででも生きていける。

「そうか。
それで、宿は何処だ?
もう時間も遅い。
なんなら送っていこう。」

「は?」

「なんだその顔は。
当たり前だろう、貴様のさっきの話を聞けば、直ぐにでもあちら側へ戻らなければハンターキラー捕獲は遠くなるぞ?
私だって組に戻って、戦況の確認をしなければならないし。
ノストラードへ向かう途中までなら、送っていってやる。」

随分あっさりな態度に俺は軽いショックを受けた。
確かにクラピカの言っている事はもっともなのだが、何かこう…寂しさが俺の胸に宿る。

「実は少し腹が減ってるんだ。
飯でも一緒にどうだ?」

「飯だと?
随分悠長だな。
…、今日は抗争があった日だから外は騒がしい。
軽いモノなら私が作るが、それでも良いか?」

「ああ、上等だ。」

クラピカは困った顔で冷蔵庫の中身やらを確認しだした。

「では、作る間に風呂でも入ってろ。
勿論戻る時には疑われない様に汚れて貰うが、食事中もそんな爆薬臭いのは堪らないからな。」

そう言ってクラピカはバスタオルを俺に渡すと、笑ってみせた。

久し振りに見たクラピカの微笑みに、俺は自分の気持ちを再度自覚した。





まさか師匠に会うなどと思っても見なかった。
山奥での物理的にも精神的にも隔絶された世界。
あの世界、あの時間が、今の私を創った。
表の世界、日の当たる場所、ハンター試験。
裏の世界、闇にのまれた場所、マフィアンコミュニティー。
その間に居た彼は、あの時の私に取っては、正に救世主だった。

野菜を切る手が止まっていた事に気付き、作業を再開する。
拳法着しか見た事が無いから余計に面食らった。
あの無骨な大きな手も、厚い胸板も、何よりあの時と同じ無精髭も。
あの手に支えられ、あの胸に癒され、あの髭に恍惚を覚えた。

下げられたティーセットに目を移し、また胸がざわつく。
過度に甘いコーヒー牛乳しか飲めないキルア用に、ミルク&シュガーセットを出すのが習慣になっていたのだ。
気付かれただろうか?
キルアの存在に。。。


おかしいおかしい。
恋人が居る事を知られて何が困るのだ。
こんな気持ちに捕われていてはいけない。
あれは、幻の世界。
二度と戻れない場所。
今度あの手に身を委ねたら、私は二度と…、





ごめんなさい、続きます^^;
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