宝物
□!NEW!二色 恋 様からの頂き物
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軍神Ares
「すまない、キルア・・シャワーを借りる」
なんで?こんな街でクラピカがゴミ捨て場に座り込んでいるのか、偶然、通りかかった俺には、理解不能だった。
確か・・ノストラードとかいう三流マフィアに身を寄せているんだったよな。ってことは、その仕事がらみで、もしかしてヤラレタあとって感じ?念は使わなかったの?ひとり?
数々のクエッションを全部飲み込んで、とりあえずその場からクラピカを拐った。いや、俺の短期契約のアパートに隠した。
「ほんの些細な食い違いだった。先に差し向けた三下の、発音には特徴的な訛りがあったのだ」
「言葉の取り違い?」
「ああ。まさか、私まで出向くことになろうとは・・つまらない話しをしてしまったな・・」
いや、なんでもいい。アンタが俺だけに向けて何かをうちあけてくれたり、ただ、どんなことでも話してくれれば・・。
返事をせずにいると、クラピカは、困った顔をして佇んでいた。
「い、いいよ。シャワー、ごゆっくり。そのあと、少し休んで行きなよ」
今度は、クラピカが返事に詰まっている。俺は、自分で言った言葉をもういちど頭の中で反芻してみる。それって、つまり誘い文句だ。
「・・ああ」
クラピカが了解した。 うそっ?えっ?
「ちがっ!そうゆう意味じゃ・・」
バスルームにはロックがかかっていなかった。ドア越しに喋るはずが、ガチャリと開いてしまったのだ。
「う、わ・・」
見てしまった。服を着ているとまるでわからない。クラピカの恐ろしいまでに青白い身体。それが・・傷が無いのは、首から上と手首から指先だけだった。どうやったら、こんなむごい痕が残る?
「キル・・」 クラピカ、そんな顔しないで。
「ごめん。俺・・」
諦めたような、俺を慰めるような、悲しい目で。
「訳あって、今は、念が使えないんだ・・醜い姿をお前に晒してしまったな。せめて、傷口を洗わせてくれ・・」
頷くことしか出来なかった。
仮住まいだ。だいたい、余計なものは持ち歩かない。
クラピカがシャワーを使っている間に、薬局にでも行った方がいいだろうか?いや、もしかしたら、帰ったらもうクラピカが居ないなんて、アリそうだ。冷蔵庫には瓶のミネラルウォーターが数本あるのみ。気の利いたワインやつまみのチーズなんて入っているわけがない・・。グダグダしていると、水音が止み、しばらくしてカチャリと音がした。
「クッ・・」
冷たい目が「何も言うな!」と命令する。俺たちはほぼ、もつれ合うようにベッドにダイブした。
お互いの輪郭を手のひらでなぞりながら、息だけが早くなる。目眩がするようなキス。クラピカって・・・上手い。俺が首にしようとすると、すごい力で跳ね除けられた。
「どうして?」
念は使っていない。だが、部屋の空気が急に冷えた。
怒らせたらしい。他人を見る緋色の目。 俺は固まった。
「違反だ。首と顔、手首から先には痕を付けるな!」
それが、業界の都市伝説「アイスドール」だと、そうとう後で知った。
未遂のまま、俺はベッドから降りた。
目の前に横たわるクラピカの眠りは浅い。ほぼ、起きているんだと思う。とぎれとぎれに寝言を言うのだ。
「夏の大三角形・・・わし座のアルタイル こと座のベガ 大神ゼウスの化身・・・・・・白鳥座。リュウ・・お前はどう思う?笑え・・私を。軍神Ares ローマ神で言えばMarsだったな・・・頼む・・」
リュウというのは死者の名前だろうか?俺はコーヒーテーブルに肘をかけ安物の椅子に腰掛けた。目はクラピカから離せずに。
GIから、欲しいカードがあった。もし、持ち帰れればの話しだったが。
<ナンバー20の強制予約権>入手難度A総数20枚。
”どんな商品でもこの券に商品名を書くと必ず手に入る。ただし市販されているものでないと効果がない。もちろん代金は支払わなければならない。1000枚入り。”
<ナンバー31の死者への往復葉書>入手難度S総数13枚。
”亡くなった人の名前を書いて往信葉書に手紙をしたためておくと、次の日には返信葉書に返事が書かれている。1000枚入り”
フッ・・・と笑いがこみ上げる。理由はわからなかった。
サイレントモードのクラピカの携帯がテーブルの上で光った。
弾けるようにクラピカがベッドから飛び出した。まるで、俺など、『そこに居ないもの』とされた。身仕舞いをすませると、携帯を探した。クラピカの携帯を、俺が握り締めていたから。
「もう、行くの?」
「・・・ああ」
返してくれ・・と目が言う。
これを返せば、クラピカはここから居なくなる・・・。
一歩クラピカが前に出ると俺が一歩下がる。二人の距離は変わらない。解り合えるだけの言葉も交わしていないし、行動を共にすることも無いだろう。
瞬きはしていないが、一瞬でクラピカが目の前に近寄った。降って来たみたいだった。何の技?瞬間移動?しかも、熟れた手つきでダガーを構え俺の耳元でつぶやく。
「師匠の受け売りだが・・・明日の夜は晴れだ。おそらく逢えるのだろう。師匠風に言えば、織り姫と彦星だそうだ。七夕という季節の行事になっている・・・。一日、早かったが、誕生日、おめでとう キルア。私は、何もやれないがな」
「また、会える?」
クラピカは、それには応えなかった。
「違反だ。首と顔、手首から先には痕を付けるな!」
おめでとうの言葉よりも、どうしてもこれが耳から離れなかった。同時に、あの眼が。
ー 了 ー