長編小説 〜Prominenceシリーズ〜完結

□Noctis Labyrinthus
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あれはまだそんなに寒く無くて上弦の月が明るい夜、母様に言われて兄様の所へ向かった。
たまには本邸で食事でも一緒に食べましょうというお誘いで、全く電話で済む要件だったんだけど、暫く見かけないあの金髪を見たかったから(何時もの様に晩餐断られたらまた会えない…)、日没過ぎに兄様達の暮らすコテージに向かった。
辺りは灯り一つなく、満天の星空が木立の頭上に瞬き、ヤケに大きな上弦の月が青白く光っていた。

コテージに着くとリビングの窓には電灯は灯っておらず、生憎留守なのか…こんな事なら、やはり電話をすれば良かった、と一人ごちた。

一応建屋の周りを歩いてみたが、どの部屋も暗く、やはり留守の様だと半ば諦め掛けた時、一番崖に近い部屋の窓のカーテンが微かに開いているのに気付いた。
僕はそっと中を伺った。
部屋の真ん中にベッドが備え付けてある。

そこに、あのヒトが月の光の中で横たわって居た。
暗い部屋に、月光を反射するあのヒトとシーツだけが青白くボンヤリ浮かび上がっている。

眠っているのか?と思ったけど、…何だか様子がおかしい。
あのヒトは、苦しそうに顔を歪めていて、細く長い指はシーツを握り締めている。
時折苦しそうに頭を振る度、額の汗が光って散った。

…病気?うなされてる?とにかく様子を見に中へ入ろう、と思ったその瞬間、シーツを離れ虚を舞ったあのヒトの手首を、上掛けの中から伸びた青白い手が掴んでそのまま指を絡めた。

そして、月光に呼応する様に輝く銀髪があのヒトの腰の辺りの上掛けから現れた。
兄様は、暫く身を起こしてあのヒトの様子を眺めてから、おもむろに口唇を腹部に這わせた。

そして真っ白なあのヒトの肌に、真っ赤な兄様の舌が濡れた軌跡を描いた。
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