小説〜Another Editions〜

□When You're Smiling
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湖面を渡る風が髪を揺らす。
日差しがチリチリと腕に注いでいる。
草むらに仰向けに寝転び、目を瞑る。
日光に瞼の血管が赤く透ける。

久しぶりにくじら島に滞在した。
辛い事ばかり在って、酷く気分が塞いでいたから、ミトさんの優しい笑顔とこの日差しが欲しかった。
いつも笑顔は絶やさない様にしていたけど、今回ばかりは流石に無理だった。
こんな風に落ち込んだ時に、必ず手を差し伸べてくれる人はもう居ない…。

何時からなのだろう…。
それが、その温もりが、特別に感じられる様になったのは…。

どうしてそこに俺が居る事が解ったのだろう。
そのヒトは、夕焼けが広がる飛行船で俺の隣に立った。
俺が泣く間、そのヒトは飛行船で何も言わず俺を見つめていた。
でもその瞳から俺は十分過ぎる位の励ましを貰った。
「本当に感謝している」そう言われた瞬間、そのヒトの琥珀色は俺の宝物になった。

言葉より、眼差しでモノを言うヒトだった。
辛い事があると俺はそのヒトに視線を送る様になった。
時に嗜める様に、時に励ますように、時に包み込むように、そのヒトの琥珀色の瞳は俺を支えてくれた。
その瞳を見る度に俺は勇気と元気を貰った。
いつもよりずっと頑張れた。

でも…。
でも、もう見る事はできない。
深く淡淡と揺らぐ金色を孕んだ琥珀。
その揺らめきが、火山の様に緋く染まる神秘。
もう、二度と覗き込む事ができない。

明日俺はまた一つ大人になる。
本当に欲しかったのは琥珀の宝物。
これから先、あんな宝物をまた見つけられるのだろうか。
自分が必要なモノを言わなくても解る、そんな相手に必ず会える、そのヒトは言った。
そうだと思ったそのヒトはもう居ない。
だから、また俺は宝探しをするしかないんだ。

風が吹き抜ける。
日が落ちて空が茜色に染まり始める。

クラピカ…。
明日は俺の誕生日なんだ。
それで、明日レオリオがこっちに来てくれる。
キルアは、クラピカが逝ってしまってから、まだ闇の世界に居るよ。
俺、いつもみたいに3人に祝って欲しかったな…。
明日は凄く寂しい誕生日になりそうだよ。

クラピカ…。
時間が経てば、平気になっちゃうのかな?
この寂しさも、辛さも。
大人になるってそう言うことなのかな。
…俺は、イヤだ。
忘れたくない。
だから、この悲しい思いも全部忘れずに大人になるよ。
そして明日からまた強く生きていく。
明日は俺の誕生日。

だから、今日は、少しだけ、
泣いてもいいよね…。

〜END〜
 

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