長編小説〜Eclipseシリーズ〜連載中

□Symptom
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ノストラードの屋敷を出る頃には、朝焼けが建物を薄紅色に染め始めていた。
二日完徹のキツイ任務を終え、私は家に車を走らせた。
首の裏側から、重く眠気が這い上がってくる。
眠気覚ましに開け放った窓からは、初夏の温い風が私の髪を乱した。
借りているアパルトマンに着くと、いくつものセキュリティを抜け、私はいつもの場所に車を停めた。
疲れた・・・、私はステアリングに頭を預けて大きく息を吐いた。

コンコン・・・。

誰かが車をノックする。
助手席側に人が立っているが顔が見えない。
マフィア仕様のこの車は窓の外から車の中をうかがい知る事はできない。
私は相手を確認するために助手席側に身を乗り出した。

「!!」

おおよそ居るはずの無い人物がそこに立っていた。
ポケットに手を突っ込んで猫背気味にこちらを窺う銀髪の・・・、

「キルア!」

慌ててパワーウィンドウを開ける。

「よ!」

キルアは悪戯っぽい笑顔で手を挙げた。
私は驚きと戸惑いで暫く二の句が継げなかった。

「・・・
取り敢えず、車降りたら?」

「あ、ああ・・・。」

私は間抜けた返事をして、車のエンジンを切って車を降りた。

「どうしたんだ、突然?」

「ん?
ちょっと近くまで用があったからさ。
さっき用が済んだから。
朝っぱらにごめんね。」

「どうやってここが分かった?
それにどうやって入れたのだ?」

「一応、ウチ暗殺のプロよ?
こんぐらい朝飯前だっての。
それよか、ずっとここで立ち話する?
突然来てナンだけど、良ければ家に上げてくんない?」

「あ、あぁ、構わんが、散らかってるぞ?」

「気にしないよ。
突然来たのはコッチなんだし。」

私はペントハウスの私の部屋へキルアを案内した。

「さっすがマフィアの幹部はいいとこ住むねぇ。」

キルアは口笛を吹いてそう言った。

「私一人には広過ぎるからと他も当たったんだが、セキュリティがまともなのが、ここしか無かったんだ。
とは言え、お前があんなに簡単に入ってこれるんだから知れたものだがな。」

「ちょっとノストラードまで遠くない?」

「そんな事まで調査済みなのか?
車で30分程度だから遠くはない。
少なくともオフの日位はあそこから物理的にも距離を置きたいんだ。」

「ふーん・・・、それにしても殺風景な家だね。
全然散らかってないじゃん。
ってか、モノ無さ過ぎ。」

ソファに腰掛けたキルアは顔を巡らせて言った。

「忙しいし、家に居る時はもっぱら本位しか読まないからな。」

「相変わらず、本の虫なんだね。」

キルアはそう言いながら振り向くと、コーヒーの用意をしていた私の方へ歩いて来てキッチンカウンターの前に立った。

「来た時から気になってんだけど・・・、
アンタ、なんて顔してんだ。」

冷たい指先が私の頬をなぞった。
蒼い瞳が私を包み込む。
私は深い海に沈みこんで行く様な気がした。

「あ、ああ、ここ数日寝てなかったから・・・。」

「ふーん・・・。」

キルアはクルリと踵を返すとソファへ戻って行ったた。
私はコーヒーテーブルに煎れたてのコーヒーを置くと自分もキルアの隣に腰掛けた。

「あ・・・、お前コーヒーダメか?」

さっきキルアの眉が少し翳った気がした。

「そういやお前甘党だったよな。
別のにするか、炭酸飲料とかは無いんだが・・・。」

キルアは何故か溜息を吐いて苦笑った。

「イヤ、いい。
砂糖とミルクがあれば飲めるから。
それにしてもアンタ、相変わらずだな、そういうトコ・・・。」

コーヒーを飲めば、しばらく目も覚めるだろうと思っていたが、逆に暖かさが胃に広がって眠気が強くなった。

「クラピカ、眠い?
寝ていいよ、二日完徹なんだろ?
今日は休めんの?」

「ああ、今日明日二日間休みだ。」

「そか。
じゃゆっくり休みなよ。」

「お前はどうするのだ?」

「邪魔じゃなきゃ、アンタが起きるまで待ってるけど?」

「いいのか?
他に用があるんじゃ?」

「いや、俺もあんま寝てないからここでちょっと寝てもいい?」

キルアはソファを指差した。

「ああ。
冷蔵庫に飲み物なんかもあるから勝手に使ってくれ。
それじゃ、悪いが少し休ませてもらう。」

「うん。
おやすみ、クラピカ。」
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