長編小説〜Eclipseシリーズ〜連載中

□Solitude
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カチャリ…。

クラピカは自室の鍵を机に置くと、窓際に進みカーテンを開けた。
こんな風に青白く月が輝く静かな夜は、あの日の事を思い出させる…。



窓から差し込む月の光は、夜になって急に冷え込んだロッジの部屋を、煌々と照らしていた。
銀の髪と青白い躰は、まるで鱗粉を集めて出来たかの様に、月光と呼応して輝いている。
一糸纏わずベッドに放たれた私は少し不安な顔をしていたのかも知れない。
彼の涙のお蔭で、不安なのは自分だけではないんだと、少し安心した。
堰を切って口付けられた後、キルアに見つめられ、僅かに愁いを帯びた端正な顔に、女なんてイチコロだろうと、瞬間そんな考えが頭に浮かんだが、後頭部に手を差し込まれ、さっきよりずっと熱い舌が口の奥深くまで侵入し、余りの熱さに息を継ごうと薄く目を開けると、何時もの凪いだ海の様な蒼の底に獰猛な雄を認めたあたりから、自分の視界が緋く染まり始め、そこから記憶が曖昧になる。

「何だったんだ、あれは…。」

クラピカは独り呟いた。

キルアが口付けた場所が燃える様に熱く甘くとろけ出し、その内、まるで快感が熱砂となって全身が包まれる様だった。
過敏になった皮膚は、手や髪や布ですら掠められるだけで甘美な悲鳴を上げ、思わず甘い声を漏らしそうになる。
澱みの無い所作に、彼は経験者なのだと気付いた事も、躰の熱を冷める理由には全くならなかった。

『ぁ、……も、う、…駄……目だ…』

やっとのことで絞り出した制止の言葉はひどく頼りない。
後には聞いた事が無い様な甘い吐息だけが漏れ、クラピカは耳を塞ぎたくなる。
どこまで堕ちて行くのか分からない快感の渦の中、それでもほんの一握りの理性を失わなかったのは奇跡に近かった。

あのまま、あれ程の快楽に身を任せてしまったらどうなってしまうのだろう…、クラピカはその想像に麻薬の様な危うい匂いを感じていた。
頬を僅かに朱に染めて、クラピカは口唇を噛んだ。
元来情欲が強い方ではないと自覚しているクラピカには、この自分自身に起こった事実は極めて理解し難いものだった。

「何であんなに…、」

感じてしまったのだろう…。
他人との性交渉などで良かった事など一度も無かったのに…。

クラピカは瞳を伏せた。
月光の中、金色の睫毛が幽かに震える。

冷たい風の音が耳の奥に甦る。
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