SD小説集

□金
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あの日から毎日が充実していた


ただの自己満足でかまわない


少しの間だけでいいから、あいつの側にいたかった





*すったもんだ金曜日*





「タクト、」



昼休み。目の前で自分が作った弁当を咀嚼している男が年甲斐もなく頬に飯粒をつけている

それでもキモイだの馬鹿だの思えない(寧ろ可愛い)のはこいつの整った顔と子供染みた雰囲気によるものだ

呆れ声で名前を呼びながら手でついているそれを取ろうと手を伸ばす



バシッ



「あっ、ごめん!でもこれくらい自分で取るからさっ」


軽く払われた手が所在なく空に浮かんで、膝元に置いた箸を持ち直す

払った当人は頬の飯粒を口に含めると残りを食べ始めた。ほんのり顔が赤く染まってる、風邪でもひいたのか?

見定めるようにじとりと、膝元の弁当を放置してタクトの顔を見た



「…まだ何か僕の顔についてますか…」

「何で敬語なんだよ。お前変だぞ」

「なーにが?」

「はぐらかすなよ、顔も赤いし気分悪いのか?」



そんな万年私服は腹だしルックと噂される彼に限ってあり得ないと思うがもしかしたら本当に具合が悪いのかもしれない



「いやー、体調は全然…」



語尾の煮え切らない返事に正直僕はイライラしていた。

今日は名前を呼ぶたびに脅えるように動揺するし、体育の時に校庭からタクトが見えたから軽く手を振れば確実に目が合ったのにガン無視された

そしてこの拒絶とはっきりしない反応だ



「気持ち悪いなら気持ち悪いって言えよ」

「いや、だから体調は」

「体調じゃなくて、昨日のことだ」



どうせ昨日のことが気がかりなのだろう、さすがのタクトも男からのほっぺちゅーは許容範囲外だったんだ

舌打ちを軽くする、タクトに対してじゃなくて浮かれた昨日の自分に対して

タクトは優しいから、と高をくくっていた卑劣さと久方ぶりに心が満たされていった己の浅ましさが妬ましい


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