その他武受けnovels

□タイミングだけは良くて
3ページ/3ページ



熱と自覚して倒れてしまってから思い違いか逃走している時よりも
体調が悪くなった気がする


「何かしてほしいことは?俺任務帰りだったから時間あるぜ?」

「…じゃぁ、手を」

「手?」

「手を握ってて貰えますか、寝付くまでで良いので」


ぼんやりと霞む思考の中で思わずそんな事を口走っていた
呆然とする彼の顔が目に映る、子どもすぎただろうか


「あ、やっぱりいい…」

「んなことでいいのな?」


目を見開いた彼がぽろりと零す


「それで満足です」


そう一言言えば丸椅子を引っ張り出し横に座って右手を握りしめられる


「左手、貫通してたから早めに完治するって」

「三日あれば十分ですよ」

「ははっ、すげーでも無茶すんなよ?」


握りしめられる掌から心地よい温もりが伝わってくる


「でもこんなんで満足すんのな?」

「僕は低体温なので丁度いいですよ」

「俺体温たけーもん」


十年の時を経てもどこか子どもじみた所が残っている微笑み
熱のせいで今回は理性に自制を重ねてるが彼に何かして貰えるならば
正直どんどん欲が出る

だって彼は求めればきっと無利益に返してくるだろうから


そんな純粋無垢で無自覚な所に惹かれた者は少なくは、ない

例えばあの孤高の浮き雲など
思い出すだけで嫌気がさすがこの状況を覚えれば少しだけ優先に立てた気でいられる
今だけは彼は自分のものだ、今この瞬間は


伝わる熱の心地よさにアドレナリンが脳を刺激する


髪が揺れる、彼が撫でているらしい


(気持ち、いい)


このまま寝てしまおうか
目を瞑る


「骸、寝た?」

(いえ、船漕いでます)


「早く元気なれよー」


ガタッ
椅子から離れる音がする、もう行ってしまうのだろうか
少し融通の利かないように手を握りしめようとした


その瞬間額に何かが押しつけられる


「これくらいいーよな」


ボソリと呟くような熱を持った独り言
あまりの急な事に体が凍ったように動かない


しばらくして寝息が聞こえてくる
つられて彼も寝てしまったようだ

当の自分はと言うと


(ね、寝れない…っ!)


五月蠅い鼓動の高鳴りが収まらず繋がってる手が気になって
結局クロームが起きるまで結局一睡もできなかった



ああホント、どこの王子様ですか貴方は




前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ