SD小説集

□火
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「スガタって過保護だったんだな」
「そうなのっすぐ心配するんだから」
「ワコが嫌ならやめるけど?」
「嫌とはいってない…」
「帰りにアイス奢って貰えなくなるもんな」
「食べ物目的じゃないもんっ」
「と、いいつつそこにアイスクリーム車が…」
「買ってこっ!タクト君も食べたいよね!?」
「うん、ぷっくっはははははは!!」
「あー笑ったーっっ!」


いーよ自分の分だけ買ってくるから!と言い残して走っていく彼女を見ながら未だ痙攣する腹筋を押さえるのに必死だった
隣を見るとスガタも呆れたように笑ってる、学校じゃ到底考えられない表情で
その笑顔にうっかり見とれてしまった僕は思ったことを正直に言ってしまった


「スガタって絶対笑ってた方がいいよ」
「笑ってるだろ、学校でも」
「あんな人と壁作ってるようなのじゃなくてさ、本気でぶつかるみたいな」
「お前に何が分かる」


僕の言った言葉が気にくわなかったのか、スガタはそれから黙り込みワコがアイスを三人分持って帰って来て「何かあったの?」と聞いても
「何もないよ、早く帰ろう」というだけで結局別れるまで僕を見ることはなかった



不燃焼のまま僕はアパートに帰り思い切りベッドにダイブする


「スガタのやつ、あんなに怒らなくたって…」


でももしかしたら言ってはいけないことだったのかもしれない。という気持ちが拭いきれず十分ほど唸り続け
思い切って彼に謝罪の電話をすることにした(幸いお付き合いを始める時にメアドと電話番号を交換している)

のろのろとポケットから携帯を取り出そうとした瞬間小刻みに掌のものが震えた


「…スガタだ」


取り出した携帯のディスプレイには「シンドウ・スガタ」と表示されていて
残念ながら電話ではなくメールだったが内容は今日のことへの謝罪だった


「いきなりきれて悪かった、引き続きバイト頼めるか?って何だよこれ」


なぜかその謝罪にむしゃくしゃしている自分の感情が分からず、彼に言いたいことも分からなくなってしまったので
その場では「僕こそごめん、明日からよろしく」と打って送り返した


その一時間後混濁する感情の中でシャワーを浴びて、珍しく湯のはったお風呂に浸かる時には一つの結果がはっきりした



「そうか、僕は…」



スガタに笑って欲しかったんだ



あの明るく輝くような笑顔を持った少女がしたみたいに

彼を笑わせたかったんだ

欲しかったのは謝罪じゃなくて、スガタの本当の笑顔で

そう思うのは初めての体験で心臓が疼いたと同時に不安になった





(メールって不便だな…)






声さえ聞こえれば相手が本音を言ってるかどうか分かるのに






水曜日に続く




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