SD小説集

□木
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もやもやする気持ちを抱えながら放課後武道館へと向かうと
昼休みに自分を頼ってきた男が手招きをしていた


「悪いなっタクト!今日に限って部長がインフルにかかっちまって」
「え、部長って」


まさか部長の代わりを自分にさせる気じゃないだろうな、補欠って言ったよね!


「まぁまぁ、相手は馴染みの練習試合相手だからさ。人数合わせ人数合わせ」
「いや、素人が部長の代わりやってたら怒るでしょ…」
「何いってんだよ!万年運動部からひっきりなしに勧誘されてるやつが!」


恰幅よく大笑いしながら背中を叩かれる
やばい、スガタと一緒に帰れば良かった。と心の底から思った

しかし男に二言はないがポリシーの僕は気がつけば無理矢理押し込められた更衣室にいた


「あ、そういえば袴の着方って」


ふと渡された袴に目を通すが本来何の関係性もないそれの正式な着方を僕は知らない
スガタが着ているのを見たことがあるが、ああいう風にしとけばどうでもいいだろうか

ここには自分一人しかいないので頼る人もいずどうしようかこまねいている所にノック音が響く


「はい、どうぞー」


ドアを開けて入ってきたのはスガタだった


「え、なんで?」
「噂で部長の代役だって聞いて激励の言葉でもやろうと来たら副部長みたいな男にここにいるって聞いたんだ」


状況を把握できていない僕の気持ちを察したのかスガタは口早く理由を伝え
僕の手元を見て袴の着方が分からない僕の状況を理解してくれた(空気よめすぎだろ)


「着付けしてやるよ」
「えっいいよ!なんとかなるから、多分…」
「着方分からないんだろ、変に着付けすると動きにくいぞ」


いや、着させてくれるのは大いにありがたいんだけど正直今はスガタとは距離を置きたかった

今でもはっきりと頭に例の夢が蘇っているのに


「なんとかなるからさ、」


とにかくそれ以上近付かないでくださいとばかりにじりじりと後退すれば
スガタはにっこりと綺麗な笑顔で言い放った


「僕たち、付き合ってるんだよな」
「…ずるいよ」
「いいからさっさと脱げ青春馬鹿」


それとも脱がされたいか。と言うスガタの顔がマジ(死語)だったので急いで体操服に着替える


「袴って結局胴着着るからどうでもいいんじゃないの?」
「しつこいな…着装の乱れは心の乱れだ基本だぞ」


そう言いながらスガタは正面に立ってテキパキと帯を締める
腰板を丁度いい位置に固定させて、しっかりとちょうちょ結びをする

その間後ろに帯を回したり腰板を調節するときにスガタがぴとりとくっつくので僕の心境は穏やかじゃなかった
さらにふわりと揺れる髪が近付くたびにシャンプーの匂いだろうか清純な香りが鼻孔をくすぐって


(うわっ良い匂い…)


ことさら夢の中のスガタが浮かんだ
夢の中の彼のように、引き寄せれば従順に唇を寄せれば恋人同士のように口づけすることができるだろうか


「ほら」
「いてっ」


ばしんっと綺麗に固定された腰板を叩かれた
どうやらぼーっとしている間に着付けし終わったらしい



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