SD小説集
□日
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「だから婚約はなかったことにしちゃおって言ったの」
「でも、ワコは」
ワコは、スガタの事を好きじゃなかったのだろうか
生まれた時からずっと一緒で、あんなに仲が良かったのに
その心配を悟ったのかワコは静かに僕を見て言った
「お互い本当に好きな人が出来たら家のしきたりなんて振りきってそうしようって決めてたんだ」
先にごめん、ってスガタ君にいっぱい謝られたからタクト君は謝らないでね
そう言うワコは悲しそうで、やっぱり彼女も彼のことが好きだったんだと思う
それが恋愛感情ではなくとも、大切だった筈だ
少しの罪悪感と一つの疑問がわく
「ん?でもそれじゃ、スガタは…」
どうして別れを告げたんだ、僕に、あんなあっさりと
その気持ちを察したのかワコは言葉の続きを話した
「だけどね、木曜にスガタ君のお父さんが倒れたの…」
木曜、僕が剣道部の助っ人を頼まれた日
スガタも用事があると言って一人帰った日
「命に別状は無かったんだけど、周りとか親戚の人とかが騒いじゃって」
そこでワコは口を閉ざす、何となく言いたいことは伝わって来た
きっと、知人や親戚の矛先が一気に一人息子のスガタに向かったのだろう
まだ高校生の彼に
「スガタは…」
「大丈夫だ、って言ってた。ちょっと先になることが今になっただけで何ともないって」
「スガタらしいね…」
「でもね、その次の日スガタ君との婚約が破棄になったって両親から言われたの」
今、もしシンドウ家当主がいなくなれば、嫡男であるシンドウ・スガタがその家紋を背負って立たなければいけない
ならばより良い伴侶を、早いうちに自覚と責任を彼に過ぎた期待と圧力を彼の肩に
「今日、新しい女の人とお見合いするって」
「今日…」
あまりの非現実さに頭が追いついていかない
とっくに許容値なんて超していた