Sanctuary

□Sanctuary「黄昏の配達人」
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 そこは、大山脈の麓に広がる、鬱蒼とした森の中。高低差のある独特の地形が特徴だ。
 この地形は、三千九百年前の大戦争に用いられた破壊兵器の痕とも、同時期に起こった未曾有の災害の名残とも言われ、独特な森の雰囲気から様々な物語や伝説の対象となっている。
 その名は、ブラウバルト。
 陸の海≠ニ謳われるそれは、今、白い夢の中にあった。
「うわー」
 森の中から声がした。若々しい、男の声だ。
「辺り一面真っ白だな。道も見えなくなりそうだ」
「本当ですね」
 別の声だ。若い女の声だろう。
「高低差激しいんで、道、踏み外さないでくださいよ? 落ちた貴方をこんな所で捜すなんて、死んでも嫌ですからね!」
「まあ、そう言うなって。良いじゃない、久々の休暇なんだし」
 ははは、と笑う男の声に、
「何が休暇です、仕事投げて抜け出してきただけじゃないですか! そろそろ戻りましょうよ……またツェルオルグさんに怒られちゃいますよ!」
 と、女の声が怒った。
 そんな言葉にも動じず、
「またまたぁ。ゲルクのことなんか気にしてたら、楽しめないぞ? 逃亡中の犯人じゃないんだからさ。ほら、笑って笑って」
 と、男の声は笑い続けている。
「無茶言わないで、怒られるのは私なんですから。ほら、帰りますよ!」
「わ、お、ちょい待ち! 落ち……落ちる!」
 どうやら襟首でも掴まれたようだ。男の声が慌てている。
「知りません!」
「いやいや、知って頂戴! 重要人物の一大事なんだけど!」
 二人がギャーギャー言い合う声が、白い森に響いた。
「…………? おお?」
「あ、ちょっ……何処行くんですか! 待ってー!」
 どうやら男が何か見つけたようだ。
 ガサガサと草木を掻き分ける音が、暫く続いた。





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