しょうせつ

□蒼穹
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 ばっかみたい。

 ・・・ばっかみたい。


 あたしは何度も口の中で繰り返す。弱弱しい公園の蛍光灯が、ブランコに座っているあたしを照らした。

 夜中の三時。

 こんなふざけた時間にも関わらず、話があるんだ、と電話がかかってきた。久しぶりのあの人からの電話で、わかった、と犬みたいにしっぽ振ってあの人の家まで行ったのが間違いだった。

 そうだ気付けよ自分。

 しばらく会ってない恋人から、真夜中に、暗い声で話があるんだ、といわれればそれはもう完全に「別れ話」じゃないか。



 マンションの三階までエレベーターに乗り、あの人の家に着いた。

 チャイムを押して、あたしだよ、なんて明るい声で言うとすぐにドアが開いた。

 あたしの顔をみるなり、はっきりと言ったのだ。

 別れて。

 状況が飲み込めないあたしを明らかにあの人は見下した。じゃあね。ドアは閉まった。

 待ってどういうこと、とあたしはドアを叩いたけれど、もう一度それが開くことはなかった。



 ばっかみたい。

 寒いし風は強いし雨だって降っていたし寝起きなのに。あたしは一体何のため?

 そういえば、あたしばっかり空回りしていた気がする。だって好きで仕方なかったのに。

 ブランコを軽くゆらしながら、ぐるりと公園を見渡す。

 さびたすべりだい、水たまりと化している砂場、置いていかれた三輪車やスコップ。

 それらすべてはあたしの仲間のようにみえた。ひどく寂しい情景。雨の匂いがする。

 もう笑うしかない、と思った。どっかのドラマにでもあるような、あたし。あはは、と声をだしてみたけれど、それはもはや声にもならず、空気だけが口から出て行った。

 ばっかみたい、あたし。別れてって一言だけで二人の時間を壊したあの人のためにあたし、あんな切ない想いして、迷惑かな、なんて電話もメールもしなかったの?

 静かに夜は明けていた。黒かった空は青さを取り戻し、あたしを嘲笑うかのように澄んでいた。

 この頬をつたった冷たい涙の理由が、あたしにはわからなかった。

 
*end*⇒あとがき
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