贈り物

□雨夜が繋ぎし、我が奇縁【3】
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父親を殺したのは、一人の男が放った銃弾だった。


詳しいことは知らない。いや、知らされなかったと言うのが正しいのだろう。


軍側から聞かされたことはただ一つ。


特務中の事件だった。


それだけ。


知っていることなど

ただ、それだけだったが、軍人として殉職(死んでいった)彼を他人は立派な最
後だったと褒め称えた。


ただ一人



母だけは


彼(父)の死について


何も語らなかった。


他人にも自分(身内)にも

何も言わなかった。


卑下も称賛も


何も。


葬儀で涙することも


なかった。


それが軍人の妻としての覚悟からなのか


そんなこと聞いたことなかったから分かるはずもない


ただ


時折


月のない深い夜のなか


窓辺に椅子かけ


ほんの僅かに微笑んで


父の勲章を


撫でていた母を見て


小さく、


不器用な人…


そう穏やかに、無意識に

呟く


母を見て


幼い自分はただ思ったのだ

強くありたいと

尊敬していた父と同じ職につくことはもう自分のなかで絶対のことだった


だから、だから


ひたすら

強さを欲した


大事な母を一人にしないぐらいの力を


生きて


側で彼女を守れるだけの力を


それが


ロイが錬金術に興味を持った始まりだった。
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