贈り物

□【SETTING SUN】
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setting sun




「ねぇ、秀一。」


「………なんだよ。」


学校からの帰り道。

私の後ろを歩く彼の返事にはいつもの元気はない。


私は苦笑しつつも足元にあった小石を蹴った。


――今日、秀一が喧嘩した――


クラスの男子とだ。

秀一は血の気は多いけど、滅多に同級生達には手までは出さなかった。


大概は五年生とか六年生とか、自分より3つ上4つ上の奴としか喧嘩にまではいたらなかった。


玲は笑うけど、秀一は私よりずっと大人だと思ってる。


ポチャン


蹴った小石は転がって川の中に入っていった。


――今日、俺は喧嘩した――


クラスの奴と。


ずり落ちかけたランドセルをかけ直す。


「っ…」


切った口の端がジクジクと痛んだ。


チッと舌打ちする。


四対一だった。


だから、顔一発くらい殴られたって俺が弱いわけじゃないんだ。


そう胸のうちで言い訳した。


「ねぇ…秀一。」


「…だから、なんだよ。」

前を歩くコイツは振り返らない。

また、足元にあった小石を蹴り始めた。


「どうして喧嘩したのさ?」


風が吹いた。


夕暮れの堤防。


周りには誰もいなかった。

コイツの赤い髪が、


「………別に。」


風に舞う。






「―――ねぇ、秋原君。」


昼休み、俺は机に座りながら本を読んでた。


玲が面白いと貸した本だ。
ページを捲りながら、


「何?」


と素っ気なく答えた。


勿論視線はまだ本に向いたまま。


「昼休みに読書かよ。さっすがもてる男は違うねぇ。」


始めに声をかけた奴とは違うやつが冷やかす。


「どーも。」


鬱陶しい。


「どーもだってよ。ハッ」

またソイツがそう言って笑えば隣にいた二人も笑う。

鬱陶しいとまた思った。


頼むから俺に構うなよ。


「あぁ、そういえばさぁ。」


また初めの奴。


コイツは確か二月ほど前に転校してきた…何とかミツていうやつだ。


興味がなかったから名前までは覚えてない。


こちらを一向に見ないことが気に入らないのか、何とかミツの隣にいた男は俺の読んでいた本を取り上げた。


仕方がないから、はぁ…とため息を一つついて、そいつらを軽くにらんだ。


周りの三人はそれだけでビビったみたいだった。


「もてる男と言えば、君の友達も女の子から騒がれてるよね。」


誰のことかはすぐ分かった。だが…



「アイツは女だ。目腐ってんのか。」


「どうだろう?違うと思うけど、腐ってたら大変だね。」

「………」

コイツは嫌いだ。

いつもニコニコしてて気持ち悪い。

なんだったかな…こいつの名前。光ってそうな名前だった。


「でも、男の子よりずっと喧嘩強いよね、あの子。」

「……」

「あ、でも顔は僕好みで可愛いかな。」

何が言いたいんだろう?


コイツの話を聞くのが嫌になって視線を他に向ける。

あぁ、なるほど。

アイツは今椿のクラスにいってんのか。


だから、コイツらは今俺に話しかけてきたんだ。


「でもさ…」

何とかミツの胸元に目がいった。

『つじざき てるみつ』

名札にはそう書いてある。

あ、そうか、輝光だ。


輝光はやっぱり気持ち悪い笑顔で話続ける。


「気持ち悪いよね。」

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