解放不可

□解放不可 [七]
1ページ/2ページ

「ね、カカシ。今から空いてる?」

仕事を終え、受付所を出たところでちょうど声を掛けられた。
大きな瞳に、厚い唇。結い上げた髪からのぞくうなじは白い。他の女とは明らかにレベルが違うルックスを持つ女。
それを自覚しているこの女は公私ともに大いにそれを利用している。


「んー・・・なんで?」


「うちおいでよ。彼女今任務中なんでしょ?」


自然と連れ立って廊下を歩き始めた。すれ違う人の視線など気にもかけず、堂々と誘う女に半場感心しながら考えるふりをする。



「そうだねえ。・・・飲みにでも行こうか。」

「やった。」


夜の誘いを肯定と取ったのか、女は嬉しそうに自分のそれを俺の腕に絡めた。
わざと胸を密着させる女から、甘い濃厚な匂いがした。

そういえば、「彼女」は香水の匂いがしたことがないな―――。
任務の無い日でさえ、していたことがないように思う。
彼女は派手ではないが決して地味でもない。普段の服装も、一般的に男受けが良さそうな女の子らしい服を着ていた。そんな彼女からは、微かな香りさえ感じたことがない。

そんな彼女を思い出しただけで、急に会いたくなってしまった。
人づてに彼女が長期任務に付いたことを聞いたときは、少し胸が痛んだ。
どうして一言自分の口から言ってくれなかったんだろう。急な任務だとは聞いたけれど、彼女自身で伝える手段はいくらでもあっただろうに。
彼女が任務に行ってまだ1週間しか経っていないのに、どうしようもなく会いたい。
姿が見たい。


―――彼女に触れたい





横にいる女が一人でしゃべり続けることに、適当に相づちを打ちながら酒を煽る。
誘われるまま、女の部屋に招き入れられた。

誰でもいい。と思った。
彼女に触れられないこの欲望を抑えてくれるなら。
肌に唇を這わせながら、彼女のことを想像した。
まだ見たことがない彼女の服の下を想像して、欲情した。

折れそうな肩に、透けるように白い肌。
唇を押し当て、吸えば白い肌に浮き上がる紅い痕。
腕が二重に巻けるんじゃないかと思えるほどに細い身体を、本当に腕の中に留めてしまいたい。
胸に吸い付けば、彼女は身体を揺らしながら悦ぶ。
俺を感じて。身体全部使って。
自分を植えつけるように彼女の身体中に触れた。
聞こえる喘ぎ声に、どうしようもなく興奮した。

ねえ、俺の名前を呼んでよ。


「・・・っあ、・・・カカシッ」


その呼び声に一瞬動きが止まる。
彼女じゃない声で現実に引き戻された。

そうだ。彼女はいない。


「・・・?カカシ?」

身体を起こし、服を着始めた俺に女が驚いたように声をかけてきた。



「そろそろ帰るね。」

「え?帰るって、え、なんで?」

「・・・・・。」

質問には答えずに、ベッドの上で裸のまま呆然とする女を置いて家を出た。



―――そうだ。彼女はいない。
それに、俺は彼女を抱いたことさえないじゃないか。

思わず自嘲めいた笑みが漏れる。
数度あった彼女の誘うような態度を受け入れなかったのは紛れもなく自分だ。
それなのに、自分は他の女で処理をして。
とうとう他の女に彼女を重ね出した。



救いようもない自分が、


滑稽に思えた。







2007/11/30 kai
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ